志賀直哉に「蝕まれた友情」という64歳のときの短編があるらしい。
「君と初めて知つたのは幾つの時だつたらう。学習院の初等科五年の時だつたやうに思ふ。一緒に中等科に進んだ記憶があるから、十一か十二の時だ。今、君は六十五、僕は六十四だから、半世紀以上、ーーその間、若し友情が続いてゐたら、半世紀以上の交りといふ事になるのだが、君が畫の勉強に最初は羅馬に、それから巴里に移り、何年かして、二十六七で、大家然とした顔つきをして帰つてから、二人の間は段々と疎遠になつた。それまで君は僕にとつて、兄事する唯一の親友だつた」
君といわれる登場人物は広瀬勝夫となっているが、安岡章太郎に言わせればこれは、広津和郎ということだとか。
どうも二人は、広津の洋行帰りから芸術論で意見が噛み合わず絶好したような書かれようだが、然し、妙なことに、これを有島生馬のウィキで調べると事情が違う。
広津和郎ではなく、親友とは児島喜久雄なる人物で、長くヨーロッパに留学、その際、有島家の女中の恋人を志賀らに託し、帰国後、彼女と結婚の意志がないことを示したため、志賀との間に疎隔が生まれ絶好したとなっている。
事件から数十年経った敗戦後になって、志賀はこれを『蝕まれた友情』という作品で発表、それが上記のものになるのだろう。
女中と児島の間には娘がいたため志賀らは怒ったのだろう。
ここもで知れば当然のこと、私としては、その問題の本を読みたくなるのが是人情。
然しでare、これをAmazonで調べると、たった1冊あるにはあるのだが3,092円という割高。
更に調べると、どうも「岩波・志賀直哉全集第4巻』に収録されているらしい。
このシリーズ『第一巻』は持っている、だが何故、岩波なり新潮の短編集に収録しないのか、全く以って切歯扼腕也だ。