愛に恋

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贋・久坂葉子伝 富士正晴

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タイトルで「贋」で断っているので、フィクションとノンフィクションの境目が分からないが、筆者本人も久坂の友人ということで登場している。
結末から言うと、久坂葉子は昭和27年の大晦日に阪急六甲駅から飛び降りたのか、線路に寝たのか分からないが21歳という若さで鉄道自殺してしまった。


彼女は芥川賞候補に選ばれたこともあった作家で4度の自殺未遂を経験し、死の直前まで『幾度目かの最期』を書き、今度こそ確実に死ぬという覚悟の六甲行きだったようだ。
自宅は神戸三宮駅から北側へ歩いて行ける距離にあったようだが、現在はどうなっているのか気になる。


18歳の時、島尾敏雄の紹介で富士正晴が主宰していた『VIKING』の同人になり、以後富士正晴に師事。
19歳で「ドミノのお告げ」が芥川賞の候補作となっている。
化粧品会社広告部や放送局の嘱託として働きながら執筆。
劇団の創立に参加し戯曲も手掛ける。
昭和27年大晦日午前2時まで、遺稿となった『幾度目かの最期』を書き続け、その日の午後9時45分、阪急六甲駅のホームから梅田行の特急電車に身を投げた。


ともあれ本書は600頁の大著、故に時間も掛かってしまう。
富士正晴は本人に成り代わり、恋に落ちた女の気持ちを語っているが、心理描写があまりに長いので、思わず久坂本人が書いているのかと勘違いすることが多い。
どれだけ故人を理解していたのか分からないが、これほどまでに代弁するとあっては、執念さえ感じられる、しかし私としてはあまり好きな文体ではなかった。


先日、これを読み終わったことから自殺現場となった六甲へ行って来た。
この街に降り立つのはこれで4度目、一度は旅がてらの宿場町へ、2度・3度は北と南にある古書店を覗きにやって来たのだが、その当時はまさかこの場所が自殺現場とは知らなかった。
しかしながら、彼是66年程前の出来事、久坂葉子の名を記憶に留める人も稀となっては、おそらく地元の人でも知る人は少なかろう。
いずれ機会があれば遺作となった『幾度目かの最期』も読んでみたい。

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               右側が梅田方面行のホーム

 

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