愛に恋

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テロリストのパラソル 藤原伊織

 
江戸川乱歩賞直木賞の同時受賞はこの作品を於いて他にないらしいが、そこまで言われたら、いったいどれだけ面白いのってなわけで私も手を出してしまった。
作品自体は95年と最近のものではなく作者も既に故人となっている。
 
事件発生から解決までの時間は至って短くドラマはスピーディな展開で繰り広げられる。
新宿中央公園で日中、ちびりちびり洋酒を呑むことを日課にしているアル中のバーテンダー
その目の前で起きた突然の爆弾テロ。
死傷者は50人以上。
 
しかし妙なことに20年以上会ってない学生時代の左翼仲間、桑野と、その当時同棲していた優子がそこに居たことを後で知る。
バーテンダーの菊池と彼ら2人の接点は、22年前に切れていたはずなのに同日同刻、偶然にも同じ公園で爆弾テロに遭い桑野と優子は即する死。
こんな奇妙なことがあろうかとアル中の菊池は事件解明に乗り出す。
 
スリリングな展開は非常に面白いが主な登場人物総てがまるでジェームス・ボンドばりの頭の回転の良さ。
頭脳明晰で、ずば抜けた行動力は、コロンボ刑事も舌を巻くほどで、ラストの方はゆっくりじっくり読まないと絡まった紐が解けなくなってしまうほどの急転直下。
確かに面白い。
しかし、何というか全共闘世代の生きる張り合いの無くなった今日の、平和な日本の中で明滅している街灯のような侘しさを感じる。
 
男が全共闘時代に「相手」にしたものは戦後民主主義の否定でも、自己否定でもなかった。それは、「この世の悪意なんだ。この世界が存在するために必要成分でさえある悪意。空気みたいにね。その得体の知れないものは、ぼくらが何をやろうと無傷で生き残っている」
 
なかなか含蓄の深い言葉だ。
多くの審査委員や批評家を絶賛させたのは単にダイナミックなストーリーだけではなく、あの時代のその後に訪れる、通底する遣る瀬無さみたいなものに共感した為もあったのだろうか。
 

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