ビリー・ホリデイと『奇妙な果実』 デーヴィッド・マーゴリック

 
ビリー・ホリデイには有名な『奇妙な果実』という自伝があるが、この本はそれとは別物。
一貫して主題となっているのは彼女が歌詞をほんとうに理解して歌っていたかという問題。
よく知られているように、この歌は南部で頻繁に起きていた黒人のリンチを取り上げた曲で、木から吊るされた果実という表現になっているが、本書には、その、生々しい「果実」の写真が載っている。
 
アメリカでは1864年に起きたサンドクリークの虐殺を始め、南部や西部では、かなり残虐な事件が起きて来た。
1876年のリトル・ビッグ・ホーンの戦いで、カスター将軍率いる第7騎兵隊が全滅した敗因を以前、ドキュメンタリー番組で見たが、その結果、戦場で何が起きたか、1890年のウンデット・ニーの虐殺など西部開拓史は血に彩られている。
 
しかし南部の黒人に対する差別やリンチも、凄まじいもので、普通の人間をそこまで狂気に駆り立てるものは何なのか本当に難しい問題だ。
彼女自身が、それらの場面に立ち会ったわけではないが、1930年代には、そのような蛮行が南部一帯に広く浸透していたのだろうか。
 
『奇妙な果実』最初の録音は1939年4月20日
当時の写真を見ると肉付きよく、とても不健康そうには見えないが、マリファナからヘロインへ移行していった晩年には、おそらく10~15㌔ぐらいは痩せたのではないだろうか。
本書はあまり読み易いものではなく、実際にクラブで『奇妙な果実』を聴いた人たちやミュージシャン、評論家、ジャーナリストの感想がのべつ幕無し引用され、訳注としてそれら人物の来歴、聞き慣れない名前に聊か戸惑う。