桑田佳祐、なにから書こうかね。
私は子供の頃から、勉強は出来なかったが趣味に関しては意外に凝り性で、先ずは集めることから始めたが、思春期に遭遇すると鑑賞することに時間を費やすようになった。
然し、どういう訳か女好きの私が、鑑賞となると無意識のうちに男性のみが対象になってしまった。
もちろん、そちらの毛はないのだが、こればかりは感性の赴くままだから致し方ない。
14歳で洋楽に目覚めた私が、その3年後、深夜ラジオから流れてきた、3~4曲の洋楽に「なんと素晴らしい楽曲なんだ」と堪能しているうちに曲が終るとDJはこうのたまう。
「以上、ビートルズのヒット曲でした」
そうか、これがビートルズだったのか。
以来、約25年間に渡って追い続けたビートルズ愛は、もう半端ではありません。
聴きに聞きまくり、数ある天才的なサウンドを心行くまで恍惚&貧乏ゆすりで過ごした青春時代。
然し、時を同じくして、友人から借りたディープ・パープルの2枚組「ライブ・イン・ジャパン」のリッチ・ブラックモアのギターサウンドに嵌り、大いに雄叫び狂った20代を迎えてしまいました。
そして21歳が芽吹く頃の深夜、7つ年上の友人から勧められた司馬遼太郎の『燃えよ剣』、これが滅法面白く、すっかり司馬ファンになり、身体も老化には程遠い思春期、青春期、勃起時を、この世の春を謳歌するが如く、もう毎日、毎晩、膨大な時間をこの三者に費やしたのであります。
キャンディーズ、山口百恵、ピンクレディーなどは柳に風と受け流し、ひたすら「男」路線を邁進する毎日です。
然し、三十路を過ぎたあたりから鑑賞生活にも変化が到来。
洋楽、読書とも軟体的に幅を広げ王道から脇道へ。
丁度そのころ、世にCDなる物が出現して私には意味が解からない。
サザンは原由子の妊娠で休養宣言。
その間、1年に限って登場してきたのが桑田バンドなんです。
デビュー当初から違和感を持っていた桑田何某とかいう奴は、まるでオットセイかカンガルーのように落ち着きがなく、くねくねと動き回り何を言っているのかも分からない。
なんなんだこいつはと、思う事しきりだったんですね。
少しは東海林太郎を見習え(笑)
がしかし、桑田バンドの「ban ban ban」と「スキップビート」を聴くに及んで桑田概念は、一夜どころか、一曲にして天才現るに激変(もう、前から現れいる)。
そうなんです、人並み外れた斬新なサウンドと、嘗て聴いたことのないジャパニーズ・ロック・ボーカリストとしての真価と進化。
こいつは正真正銘の本物だ。
私の情熱もビートルズ、リッチ・ブラックモア、司馬遼太郎で早くもジ・エンドになるのかと思いきや、予想もつかなかったジャパーンから出て来るとは。
昔、ビートルズで経験した、名曲のオンパレードの出会いが、サザン、桑田ソロでも乞うご期待となる連日連夜胸騒ぎの腰つき。
一体、桑田の何にそんなに惚れたのか。
桑田の父が移住した満州です。
いやいや、そうではなく、全盛期の歌唱力もさることながら、①にアレンジ力の素晴らしさ。
1999年だったか、AAAで「エリック・クラプトソ」最後は「ン」ではなく「ソ」です。のライブを演りましたが、クラプトンという人は、持ち歌の3割ぐらいしか自作がなく
、他の7割はカバー曲となんですが、桑田の場合、贔屓の引き倒しではなく、先ず公平に見て、アレンジではクラプトンより数段勝る才能を感じたわけなんです。
アレンジを言い出したらきりがないが、極端なところで言えば
胸の振子』のジャズ風アレンジには本当に驚いた。
桑田は本書でも再三再四、自分の曲は洋楽のパクリだと自虐めいて言っているが、総ての曲は模倣から始まるとのとおり、端唄、小唄、都都逸、演歌など日本の風土から生まれた土着の音楽以外は洋楽の模倣から始まっている。
確かに桑田楽曲はパクリの要素はあるものの、なら誰でも簡単にヒット曲を量産できるかと言えばさに非ず、そんな生易しいものではない。
ある人が言っていたが「桑田さんほど洋楽を体現できる人はいない」と。
それに彼は物まねが非常に上手い。
桑田は言う。
「日本人はオリジナルティより正に模倣が得意だよね。憧れと同時に、コンプレックスをチカラに変えるのが実に上手い」
まったくその通り、明治の文明開化と共に模倣で列強に追い付け追い越せ、産業革命と言う程ではないが殖産興業で、第一次世界大戦後には世界第三位の海軍力を誇るようになった。
閑話休題。
以前、レオン・ラッセルの『タイトロープ』を桑田バージョンで聴いたことがあるが、それはもう驚くほど似ていた。
いつだったか、そのレオン・ラッセルが桑田邸に来たというからこれまた驚く。
②に彼の声帯。
『ひとり紅白』では50曲ほど歌うが、それも中一日休んで3日続ける。
私などは3曲も歌ったら誰かに代わってほしいぐらいだが、先ず声が嗄れて出なくなるのが普通で桑田にはそれがない。
日本で唯一、サザンで80s、90s、00s、10s。
ソロで80s、90s、10s、10s、20sとオリコン一位を獲得している。
扨て、桑田の文章力だが、もうこれは音楽人としての素養も加味して、エッセイストとして十分ひとり勃ち、失礼、ひとり立ちしていける力量があるだろう。
思っていた以上の文筆力を発揮し、硬軟取り混ぜて縦横無尽に斬っては投げ、自虐しては本筋で絞殺す技は、おおいに満足感があった。
そのうち誰かプロのライターが『桑田論』を書いてもらえないだろうか。
『漱石とその時代』という本があるが『佳祐とその時代』とかね。
趣味のボーリングと音楽活動を踏まえて文春に1年半、記事を投稿するのはさぞやきつかったことだろう。
見事やり遂げ上梓できたことにおめでとうと言ってやりたい。