愛に恋

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ジャンゴ・ラインハルトの伝説 マイケル・ドレーニ

 
勝手に読んでおいて愚痴を言うのもなんだが、まあ今回の本ばかりは疲れた。
特大サイズの単行本で2段組、重たい、字が小さい、長い。
知らないことも多かっただけに、もうぐったりだがやっと開放され一安心。 
 
さてと、ジャンゴ・ラインハルトだが、これまで本格的な伝記本がなかったとか。
しかしそれにしてもよく調べている。
著者は音楽に関する知識も並外れ、単にジャンゴの生涯を追うだけではなく、その大半は20世紀初頭のジプシー音楽からジャズがフランスに持ち込まれ大戦中にも関わらず大流行し、一時代を築いたあらまし、ジャズマン達の離合集散、それはもう事細かに書き切っている。
 
 
もともとジャズをフランスに持ちこんだのは第一次大戦中、ヨーロッパにやってきた黒人兵で通称ハーレム・ヘル・ファイターズという一団。
慰問目的の即席バンドだったがゆえに戦後、帰国すると全員が無職になり、仕事を求めてフランスに舞い戻ってきたのが事の発端らしい。
 
ロマ人であるジャンゴとジャズの出会いはこの時で、すっかりジャズに魅了された彼は次々に斬新なアイディアで独自のサウンドを切り開いていくが、ジプシーの人たちは全く読み書きが出来ず、この世に楽譜というものが存在すること事態知らなかった。
しかし彼のずば抜け聴覚は、一度、音を聴いただけで再現可能という天才プレーヤーだったとか。
それにも増して凄いのは火事で全身火達磨の重症を負い肝心の左指が見るも無残に焼け爛れてしまったが、親指以外2本の指だけで超絶テクニックを習得したことで、40年代には世界一と賞賛されるほど腕前だったが莫大な金を稼いだ割に財産が残らなかった。
 
価値観そのものが違うのか、車を50台も買い換えたとあるが、物欲はあれど物に執着しないのだろうか。
運転免許は持たず巨額なギャラはその日のうちに消え、ライブもレコーディングも気分次第で約束もお構いなし。
しかしジャンゴの名声は留まる事を知らず誰もが彼の曲を聴きたがりジャズの巨人たちも彼との共演を申し込んだ。
 
1939年、ベニー・グッドマンのギタリスト、チャーリー・クリスチャンギブソンのエレクトリックを弾きギターの世界に革命をもたらした頃、第2次大戦が勃発。
フランスがドイツ軍に占領されるに及んでナチズムの民族浄化という信念に反する、その最たるものがでキリストを十字架に掛ける釘を作ったいわれているジプシーで、即ちロマニーはユダヤ人より先に抹殺の対象となり、欧州全土から60万人が姿を消したが絶頂期を迎えていたジャンゴは逃げなかった。
 
ナチにとってジャズは邪悪な音楽でありゲッペルスのジャズ撲滅運動にあって何故パリでジャズが生き残りジャンゴが逮捕されなかったのか興味深い。
ゲッペルスのしたたかさも見え隠れしているがそこを書くと長くなるのでやめておく。
いずれにしてもジャンゴが後世のギタリストに与えた影響は大きく、現在は毎年6月最後の週に、パリ郊外の町サモアで行われるジャンゴ・ラインハルト・フェスティバルで世界の超絶プレーヤーが集う祭典がある。
行ってみたいものだ!
しかし、後書きにもあるが、
 
「そもそもロマニー語というのは音声のみで構成され書き文字の伝承自体がない」
 
故に身内が死んだ場合は遺品の総てが焼かれロマ族の歴史そのものが分からないとは知らなかった。
 
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