愛に恋

    読んだり・見たり・聴いたり!

一人称単数 村上春樹

今年の2月10日発売の文庫を古書店で買えてラッキーってなもんです。8編からなる短編集でどこまでが実体験に基づいているのか分からないが、中でも「ウィズ・ザ・ビートルズ With the Beatlesが一番良かったな。学生時代兵庫に住んでいた著者のガールフレンドの話だが、デートと決められた日に尋ねて行くと、彼女は留守で兄が寝ぼけ眼で対応し、彼女が帰って来るまで上がって話し合う。以来、10数年会っていなかった、その兄に偶然東京のど真ん中ですれ違い声を掛けられる。訊くに、元カノは死んだという話だが、少し身につまされた。著者は本編のところどころにキーワードとなるような言葉を添えている。例えば「人を好きになるということは、医療保険のきかない精神の病みたいなもの」確かに言えてる。「瞬く間に人は老いてしまう」ほんとだよね、20代の子と付き合っていたのがほんの最近だと思っているうちに。「自分と同年代であった人々が、もうすっかり老人になっている」老人どころが病没した人もいるではないか。

作家は観察力や洞察力の優れた人がなるものだと思っている。それを常人とは似て非なる言葉で紡いで文章にし、時に感動させる。私は特段、ハルキストというわけではないが、決して読まないわけではないでで、これからも機会があれば読むこともあろう。