愛に恋

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美しき愚かものたちのタブロー 原田マハ

余談だが元老松方正義は、ある日、明治天皇に「松方は何人子供がいるのじゃ」と訊かれてことがあった。答える松方は「え~と、ちょっと家に帰って数えてみませんと」と返答したが、彼は十五男七女という大家族で、この本のテーマとなる松方幸次郎は三男になる。川崎造船所の社長として辣腕を振るい湯水の如く絵画、美術品をパリで購入した松方の夢は、日本にはまだない美術館の建設。いくら日清日露の戦役勝っても美術に関する造詣がない国など先進国とはいえないという理念の下、買って買って買いまくり、パリの画廊でも一目置かれる存在になっていくが、震災、戦災、敗戦と打ち続く中、イギリスに保管してあった美術品は全て焼け、離散していく松方コレクション。美術館建設は夢と消え松方も病没。戦後、行方不明なっていたコレクションがフランス政府の所蔵と分かり、敗戦国日本として、それを取り戻そうとする主人公の物語だが、これはちょっとした大作だ。主人公田代雄一を除けばすべて実在の人物で、物語は史実に基いたフィクション。然し、今となれば松方が買い求めた美術品の数は誰にも分からない。