「私たちは哲学、心理学、芸術に逃げ込むのではなく、粉々になった自分を完全なものに取り戻すためにそこに行きます」
アナイス・ニンが生涯をとおして書き続けた日記。
無削除版第2巻、待望の翻訳出版。
夫、ミラー、アランディ、アルトー、ランク……そして父との“愛”。
他者との関係のなかで、複雑に屈折する自己の内面を深く見すえた膨大な記録。
1930年代パリ――夫、従弟、作家ヘンリー・ミラー、ミラーの妻ジューン、精神分析学者ルネ・アランディ、詩人アントナン・アルトーとの錯綜する関係を生きていたころ、ニンは10歳で別れた父と再会する。
自分を捨てた父への「読まれない手紙」として『日記』を書きはじめたニンは、長年にわたる複雑な思いを秘めながら、父と二人だけの濃密な9日間を過ごすが、そのあとに残ったのはさらなる混沌だった。そして彼女は、高名な精神分析学者オットー・ランクのもとを訪れる……。
ニンの弟は、本書を姉の創作であると位置づけ、出版に最後まで強硬に反対したが、インセスト・タブーを乗り越えることにより、人間として、芸術家として成熟していったニンの克明な記録は、文学史上、比類ないものである。
「愛こそは私の生の軸であり息吹である」「私が欲しいのは、エクスタシー、生の昂揚だ」
そうか、この本はそういう意味の本だったのか。
愛欲の生々しい場面や近親相姦などもあるようだが、なかなか天晴れな女性だ。
フランス生まれの著作家であり、11歳の時から死ぬ直前まで60年間以上にわたって書き継がれた日記を出版したことで著名である。また性愛小説家としても名高く、肉体的なことだけでなく、性の完全性と欠陥についても追求している。
自らが体験した性愛を日記に書きとどめるような女性などは滅多にいるものではないが、ましてや不倫に到ってまでも遠慮会釈なく書くなどということは、まあなんというか、私などは脱帽してしまう。
「私が欲しいのは、エクスタシー」
そうだな、芸術家の根幹を為すものだ。
読むには少し大変そうだが、そう言われてみると挑戦したくなるものだ。