愛に恋

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耽美頽唐

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「かにかくに 祇園はこひし寝るときも 枕のしたを水のながるる」
 
祖父に薩摩藩士伯爵吉井友を持つ、「ゴンドラの唄」で有名な歌人吉井勇の作だが、石碑の後ろには白川が流れ、手前に石畳が敷かれている場所で昭和20年頃まで、この一帯には、お茶屋が立ち並んでいた。
その内の一軒がこの碑の舞台となった「大友」という茶屋だったが、大戦末期に取り壊されてしまった。
石碑は吉井勇、古希の祝いに、昭和30年11月8日に谷崎らの尽力によって建てられたそうで、往時を偲ぶよすがはどの程度この界隈に残っているのかは分らぬが感慨ひとしお。
明治43年生まれの吉井は石川啄木谷崎潤一郎平塚雷鳥松井須磨子同年生まれ
酒以外には珈琲好きだったのかこんな歌もある。
 
珈琲の濃きむらさきの一碗を啜りてわれら静こころなし
 
吉井勇は『酒ほがひ』という歌集を出版したが、今日では聞き慣れない「酒ほがひ」とは「酒を飲んで喜ぶ」という意味らしい。
戦後、多くの美しい言葉が失われてしまったので、今日では同じ日本人でありながら言葉が通じなくなってしまったのは残念だ。
吉井の歌風は耽美頽唐と言われているが耽美頽唐とは何か。
 
頽唐とは「たいとう」と読み、道徳的で健全な精神が失われていると訳すらしい。
今風に言えば退廃ということになるか。
若山牧水も吉井に似て酒を愛して已まなかったことは似ているが、歌はかなり難しい。
然し、吉井のこのような歌なら理解出来る。
 
黒髪はもとの黒髪くちびるはもとのくちびるなつかしきかな