居眠り狂志郎の遅読の薦め

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梨本宮伊都子妃の日記―皇族妃の見た明治・大正・昭和

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久々に大阪天満にある天牛書店に足を運んでみた。
流石に大阪随一の古書店だけあっていつ行っても客は多い。
私が見るコーナーは毎度決まっていて文庫本全般、歴史、戦記、伝記、評伝、美術、映画、文壇史や日記といった類。
追い遣るように背表紙を見ていく中、ある本に目が留まった。
 
『梨本宮伊都子妃の日記―皇族妃の見た明治・大正・昭和』
 
ふん、このタイトルには見覚えがある・・・?
文庫本ではなく単行本で出版された頃、よく書店で見かけ買うかどうか迷ったような、だが何をどう迷ったのか思い出せない。
本を手に取りページを捲っていくうちに記憶が蘇ってきた。
そうだ、特大版ゆえに買うのを躊躇っていたあの本が、いつの間にか文庫化されていたのだ!
奥付を見ると1991年11月に出版され2008年11月に文庫化とある。
 
知らなかった、天牛書店を訪れなかったら或は永遠に出会わなかったかも知れない。
それほど巡り合うことの稀な古書文庫ではないだろうか。
明治・大正・昭和の三代、77年間にわたって書き綴った日記でかなり長いが、これを読まずしては死ねない。
しかし、梨本宮伊都子妃と言っても誰のことやら分からない人も多いと思うのでまずは簡単に、その系譜から紹介しなくてはなるまい。
 
生まれは明治15年で旧名は鍋島伊都子。
父は肥前佐賀藩最後の藩主鍋島直大(なべしま なおひろ)侯爵。
つまり薩長土肥肥前大隈重信は家臣ということになる。
名前の伊都子は当時、直大が駐伊特命全権公使だった関係でローマで生まれたことに由来する。
その伊都子が梨本宮守正王と結婚して生まれた娘、方子(まさこ)が後に朝鮮王朝の李王世子と結婚した人と言えば分かるだろうか。
 
余談だが明治31年の『日本経済史』による高額所得上位者という表がる。
それによると上位陣は政商と旧大名家の華族によって占められ。
 
1位、岩崎
2位 三井
3位 加賀前田
5位 薩摩島津
7位 長州毛利
9位 紀州徳川
10位 讃岐松平
11位 安芸浅野
12位 尾張徳川
15位 佐賀鍋島
 
因みに鍋島家の年間所得は109,093円。
といっても解り難いが『日本之下層社会』という本によると東京貧民は人足、車夫、くずひろい、芸人などで日当は32銭程度。
つまり年中日無休で働いたとしても年120円ほどで、華族鍋島家との差は歴然だ。
 
だが、財産はともかく身長の低いことが伊都子の悩みで記録によると四尺九寸八分というから151㎝ぐらいしかなかった。
それにしても、まあ日記は仔細を極め趣味の欄には以下の記載がある。
 
琴、かるた、写真やきつけ、活動写真、油絵、蓄音器、玉突き、トランプ、テニス、花火、自動車運動、買い物、つみ草、栗ひろい、ラヂオ、マージャンなど。
 
自動車運動とはドライブのこと。
大正10年3月5日に初めて木村屋のあんぱんが登場するが、あんぱんは女官たちの間で人気があったと記載されている。
話しは前後するが大正元年10月27日、伊都子は初めて飛行機を早朝から見に行っている。
 
六時ニ十分頃、ブー、ブーと音を立て、西北の方よりまざましき飛行機見えそめたれば、皆々全身とび立斗(たつばかり)よろこび、拍手したり。
 
初めて見る複葉機への興奮が書かれている。
ラジオの本放送は大正14年7月12日で、何事も新し好きの伊都子は早速ラジオを購入、当日の放送内容を簡単に記すと。
 
軍楽隊の君が代演奏、中村歌右衛門一派のラヂオ劇、近衛秀麿山田耕筰の音楽。
 
しかし、女性皇族は遊んでばかりいるわけではなく戦争があれば赤十字社の看護婦として働かねばならず全国の病院慰問、またはチャリティー、さらに皇族講話会など行事に暇はない。
 
因みに秩父宮妃勢津子様は伊都子の姪になる。
この本には多くの貴重な写真が掲載されているが実に興味深い。
大正天皇を初め、幼少の昭和天皇や今上陛下の誕生間もない写真。
また、伊都子妃は明治大帝の崩御に立ち会い大正天皇崩御に関してもこと細かに記述していて、皇族が書いた日記としては稀なるものではなかろうか。
 
勿論、関東の大震災や乃木将軍の殉死、第一次大戦満州事変、連盟脱退。
女性皇族から見た日露戦争から敗戦に至る経緯、空襲による各宮邸の全焼。
更には夫、守正王が皇族として唯ひとり戦犯として逮捕されるなど、まさに波瀾万丈の生涯であったことが随所に散見される。
追い打ちは思いも寄らぬ臣籍降下華族制度の廃止。
 
武家の娘として生まれ敗北後の覚悟もあったろうが日々の日記を綴ることで不安を鎮めていたのか本当に長い間、多岐にわたり書き続けられた貴重なもので後世に残すべき価値のある一冊だと切に思う。
 
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