愛に恋

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「ムーンライト・セレナーデ」 人間に対する観察力

作家というのは作品や日記や書翰のすべてにわたり一行一字も見のがさぬ注意ををもって見ても、一人の作家がそこに生活や思想のすべてを告白しているとは信じがたい。作家はその作品に於てまったく架空の観念の所産も、現実以上のリアリティを持ったものとして真実めかして描くことが出来る。と同様の技巧や手法を駆使するならば、その同じペンで、いかにも不用意に素顔をのぞかせたような擬態を、真実めかしてみせ、読者に手を拍たせておき、そのかげで、読者の手には素顔の皮だけを残し、ひきはがした血のしたたる自分の素顔の肉と骨だけの顔で嗤うことだって出来るのである。「ムーンライト・セレナーデ」のお時間です。作家業とは本当に人間に対する観察力が優れていなければとても務まらない。そういう作家の本を読むと、なるほどなぁという譬えなどがよく出て来る。私には出来ないお家芸だ。おやすみなさい、また明日。