愛に恋

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「ムーンライト・セレナーデ」 いじいじした、陰気な蜆のような悲哀

冬の日陰にかじかんでいる。あのあわれに心細い、いじいじした、陰気な蜆のような悲哀が、いつからとなく、次第に犀星の心の染み込んできた。彼は庭を作り、苔を植え、毎日縁側に出で眺めていた。そして冬のわびしい日ざしが、石に這ってる影を感じ、うら枯れた梢に咲く、さびしい返り花をながめていた。彼はまだ四十にならない、若い元気ざかりの青年であった。けれども、いつの頃にか、老いがその心を蝕んでるように自覚した。実際、庭石に這う冬の日ざしや、力のない青竹の影などを見ていると、真にわびしい老人の心になった。彼は自ら、その寂しい心境を悦んだ。そして漁眠洞という雅号をつけ、笑止にも老人めかして世を果敢なんだ。昨日に続き朔太郎の犀星談だが、芥川、谷崎など、天才たちの交友など読むのは本当に楽しい。よくもまあ同時代に生きたものだ。「ムーンライト・セレナーデ」のお時間です。また明日、おやすみなさい。