愛に恋

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雷蔵好み 松村友視

 
日本で一番好きな役者はと問われれば迷わず市川雷蔵と答える。
あの惚れ惚れとした立ち居振舞いは眠狂四郎役によって極まれりと言いたい。
当時の関係者は証言する。
 
「メーキャップでこんなに変わる人はいないですね、狂四郎のメーキャップなんて、とてもじゃないけど眼鏡をかけた青年のあれじゃない。普段は銀行員の、しかも係長クラスのタイプですよ」
 
仕事以外での写真を見ると本当に驚くが、黒縁眼鏡をかけた公務員のような人で雑踏の中を歩いていても誰も雷蔵と気が付かなかったと言われているが、一たびメーキャップしてカメラワークの前に立つと別人かと思えほど変わってしまう。
これが私の好きな一枚!
 
 
眠狂四郎役は確かに雷蔵のはまり役だが、彼以外にも鶴田浩二、江見俊太郎、松方弘樹平幹二朗田村正和林与一片岡孝夫と演じている。
なかでも片岡孝夫のテレビドラマは良かったのだが、しかし、雷蔵が醸し出す、虚無感、孤独感、影という世界に誰も到達出来なかった。
初代は鶴田浩二で原作者の柴田錬三郎は、これを失敗作だと思い、映画化を希望して訪ねて来た雷蔵も二度目の懇願でOKを出された。
 
雷蔵は同時期『忍びの者』で石川五右衛門を演じているが、私の子供時分はテレビで、この『忍びの者』を品川隆二が演じ、楽しみに見ていたのだが、後塵を拝する形でこの番組が始まったということか。
 
ところで眠狂四郎を小説で読むと、これが意外に難しい単語が並ぶ本格的時代劇なのだ。
私も数多く映画を見てきたが寅さんと狂四郎ほど名文句を吐く役者を知らない。
 
俺は人間という人間に腹を立てている男さ。そのくせ俺も人間なんだ。
・俺は明日のために今日を生きておらんから、運勢など気にせん。
・俺はな、生みの母親の顔さえ知らぬが、女の腹から生まれ出たのに相違ないのだ。
・わしはまともな人間ではない。当の本人が言うのだからまず間違えない。
・俺は凶をしょってこの世に生まれ出た男だ。
・抱いてやろうか?別れは言うまい。もうすでに別れている。ただ抱いてやるだけだ。おのれを抑える心はある。
 
・女を犯すことは慣れている男だと観念されるがいい。
・お前のような女を見ると、おれのひねくれて無頼の欲情がそそられる。
・俺が一両で買ったのはそなたの身の上話だ。そなたの体に一両の値打ちはない。
・そこへ寝ていただこう。もとより無頼者、操を頂戴するには場所を選ばん。
・そんな眺めには慣れておる。他に趣向はないのか?
・酒は一人で飲むものと決めておる。
・総じて男は美人の肩を持つ。
 
など、書き出したら切りがないが、これまた雷蔵の美声が冴える。
あのニヒルさがたまりませんので、もう少し。
 
・ご家老、この業物は夢想正宗、ご賞味願おうか。
・またひとつ、鍛えぬいた技が消える。
・血を流すには美しすぎる。
・この世は地獄だ。神がいると信じるなら、あの世に行って確かめることだ。
 
因みに夢想正宗とは狂四郎の差し料、刀のこと。
そして最後に!
 
円月殺法を、この世の見納めに御覧に入れる。
 
以上、眠狂四郎ばかりを中心に描いたが雷蔵の主演作品は159本。
宜しければご堪能あれ。
 
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