1973年9月11日のこの日、チリで起こった大事件のニュースを新聞で知った私は、その記事を切り抜いて長い間、保管していた。
モネダ宮殿にある大統領官邸を空爆するというほどの暴挙で、大統領は執務室に入った反乱軍に機関銃で応戦した後に自殺したらしい。
軍の措置は強圧的でアジェンデ派の市民、数千人が殺害され7万人を投獄、多くの人が拷問で命を落とした。
その凄まじさに慄くばかりである。
この本は事件後、13年経った1985年、亡命中のチリ反政府派の映画監督ミゲル・リティンがイタリア、オランダ、フランスと三つのチームを極秘裏に戒厳令下のチリに潜入させ、現在の情勢を膨大な記録フィルムに収めようというスパイ映画さながらの話しなのだが、至る所に国家警察や私服警官の目が光っているとは言え、文面からは、あまり緊迫感は伝わって来ない。
しかし、もし捕まったらと考えるだけで恐ろしい軍事政権下に潜入するのは、余程の覚悟がいる。
ミゲル・リティンは家族や友人に会っても、バレないほどの変装をして入国しているので危機意識は相当なものだったろう。
本書が世に出たのは1986年。