居眠り狂志郎の遅読の薦め

未だ休読日に至らず

蜩ノ記 葉室麟

 
第146回直木賞受賞作、なるほど、清々しい感動小説でした。
武家言葉など身に染み入るようで、某(それがし)感服仕った次第であります、と言いたくなる見事な出来栄え。
拙者にとっては久々の時代小説。
 
以前、 藤沢周平原作の蝉しぐれという映画を観たが、どちらの作品にも共通するのは武士の一分を貫くということだろうか。
家督相続と側室問題などが複雑に絡み合った時代劇ミステリーで、一貫して清廉潔白、全くの濁りがなく死に対しても潔い。
武家がみなこのような姿勢であったとは思わないが素晴らしい人格者として書き上げている。
切腹を前に敬愛する和尚との最後の対話。
 
「ならば、もはや思い残すことはないか」
「もはや、この世に未練はごさりませぬ」
 
「さて、それはいかぬな。まだ、覚悟が足らぬよいじゃ」
「ほう、覚悟が足りませぬか」
 
「未練がないと申すは、この世に残る者の心を気遣うてはおらぬと言っておるに等しい。この世をいとおしい、去りとうない、と思うて逝かねば、残された者が行き暮れよう」
「なるほど、さようなものでござりまするか」
 
僧籍に身を置くわけでもない作者がよくここまで書けたものだ。
時代小説には悟りと言うものも必要なのだろうか。
即ち、
 
「世を去るべきかどうかが問題ではない。去ると決まった以上はその日に向けて人としてどう生きるのかが肝心で、その一点から真価は定まる」
 
葉隠には「武士道とは死ぬことと見つけたりとあるが私には到達出来ない悟り。
 

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木暮荘物語  三浦しをん

 
舟を編むという辞書編纂に情熱を傾ける青年の映画を観たが、三浦しをんという作家はまた馬鹿に堅苦しい本を書く人かと思っていたら豈図らんや。
この作品は7編からなる短編連作小説だがいずれも通底するのはズバリ、セックス!
木暮荘という古い木造アパートで繰り広げられる人情話しかと思いきやすっかり騙された。
 
たとえば臨終近い70歳過ぎの友人を木暮荘の大家が見舞いに行く場面があるが、病室で聞いた病人の意外な言葉!
 
かあちゃんにセックスを断られた」
 
医師の許しが出て最後の一時帰宅の折りに妻にこの世の名残か情交を迫って断られたというのだが小暮老人は驚いている。
 
「実際に体が用をなす状態になるとは思えない。しかも相手も皺くちゃのばあさんだ」
 
皺くちゃはともかく、この期に及んでそんな欲求が出るものだろうか、甚だ疑問だがしょうがない小説にはそうある。
 
性は人間の根幹を為すものではあるが女流作家が斯くもあからさまに男女の営みを放言して憚らない様は男をしてたじろがせる。
不埒にも大胆な発言「入れて揺れて抜く」と言われて女性もついにここまで進出したかたと喝采したい気持ちだ。
 
内閣に「女性活躍担当」という部署があるが将にこれである!
愛と性は切り離せないものだが性と文学も、否、芸術と性は表裏一体を為すものでもあろう。
三浦しをんという女性の豊かな発想力と創作力の幅に興味深々。
平成の女性作家を応援した。
 

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パパは楽しい躁うつ病 斉藤由香

 
今日は記事を書くにあたり記憶に留める意味合いもあって昨日の大地震の事を少し書いておきたい。
ブログの性質上あまり個人的なことは書かない主義なのだが今回は例外ということで。
実は毎日記事を更新してはいるが、ここ半月程前からヘルニアが悪化して歩行困難。
治る見通しも立たず困っているところに持って来て昨朝の大揺れ。
連日、激痛に伴う睡眠不足でちょうど寝起き鼻のタイミングで叩き起こされ、同時に居間の方で何か崩れる音、人生、初の経験とあって実に驚き入り候とでも言うか困惑した。
交通機関が断たれ帰宅困難者であふれ返るとは我が街の事で、当方、まだ生まれてないが73年前の1945年6月8日、大阪空襲以来の現象ではないかと思う。
今日も5時前の余震で起こされ日々3時間ほどの睡眠、全く困ったものだが致し方なし。
そして今これを書いている、気象庁発表では今後も同程度の余震が起こり得るとか。
果てさてこの先どうなることやら。
 
さて本題だが明治以来、三代続く精神科医の家系、どくとるマンボウこと北杜夫さんと娘の由香さんの対談集だが、北さんは躁鬱病で何十年も過ごされたとか。
 
余談だが北さんは昭和2年5月1日生まれで芥川の自殺は同年の7月24日、斉藤茂吉と芥川の交流は夙に有名だが北さんの誕生を知り一回ぐらいは目にして旅だっているのだろうか?
ともあれ北さんの病歴はかなり長期間に渡ったもので由佳さんによると・・・
 
「パパは作家としてはたいしたことはないけれども、躁うつ病を世に広めた功績がある」
 
ということになるらしい。
何しろ躁鬱病が世間に認知されていない頃から誰憚ることなく病名を公表した功績があるとか。
『パパは楽しい躁うつ病の何が楽しいかと言えば鬱の時は夕方まで起きることなく物静かで平和な家だが躁になると一転はちゃめちゃな生活が展開される。
その様を間近でみていた由佳さんは愉快でたまらなかったと捉えたらよいのか、私自身、この病気のことをあまり理解していないので答えようがないが。
 
しかし、あまりの変貌に確かに驚く。
朝の5時に起きて株の売買。
映画を鑑賞し広沢虎蔵の清水次郎長を唸り中国語、英語、短波放送、ベートーベンと同時に流しバカ、テメエ、この野郎」と怒鳴りまくり自宅を拠点に独立共和国を宣言。
名付けてマンボウリューベック・セタガヤ・マブゼ共和国」
国旗、勲章、紙幣、コイン、そしてマブゼ・イラストを模したタバコを製造。
 
主席は自身が就任、妻は大蔵大臣、由佳さんは平和大臣。
11月3日を「文華の日」として各賞贈呈式。
競走馬が安楽死されたと聞くや自分も安楽死を願い、ギャンブルに嵌り『徹子の部屋』で「ここでコマーシャルです」と言われると「コマーシャルなんかいいんですよ」と番組が終わっても話し続ける。
 
妻が転んで出血すると救急車が呼び「わざわざ来ていただいてありがとうございます。コカ・コーラキリンレモン、どちらがいいですか」と訊く。
笑っては失礼だが苦笑が洩れる。
確かに『パパは楽しい躁うつ病というのも頷ける。
 
キャンブル、株で北家は破産するが救いは家族との会話か奥さんとは始終、金の問題で大喧嘩しながらも軽井沢旅行は欠かせない。
北さんは言う。
 
「蝉の雄は幸せなるかな、なぜならば声なき雌を有すればなり」
 
「いずれにせよ、人間は“矛盾の束”である。完璧な人間などいないのだから、いい加減に生きるのがうつ病にならないコツだと、私は思う」
 
84年の生涯、倖せとはどういう尺度を持ってして言うのか分からないが北さんの場合、痛快な人生だったのだろうか。
どちらにしても娘さんをして『パパは楽しい躁うつ病と言わしめているのだから、その意見に従いたい。
 

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歌集 秘帳 湯浅真沙子

 
 湯浅真沙子、今回、この歌集を手に取るまではまったく知らない人だった。
それもそのはずで明らかになっている経歴と言えば、富山県生まれ、大正末期から昭和の初めに上京し日本大学芸術科に通い、結婚して間もなく夫と死別、本人も20代で亡くなっている。
以上が分かっている全てで縁戚関係さえ定かではない。
歌集編纂は真沙子の死後で昭和26年だが、大胆な性表現などから結構売れたらしい。
少し紹介したい。
 
風呂のなかで誘ひたまへど出来ざるを二人声立て笑ひけるかも
芸者とせしきみが話をききゐつゝそゞろに淫るこゝろもうれし
話しにきゝし御殿女中が使ひしといふ張形といふものどこかで見たし
 
中途にてなえたるときの憎らしさ辛(いら)さを君は知る知らずや
旅の宿わづかの時の叫びごえ少し慎めといふ君の憎らし
淫欲の果なき吾のこのおもひかなへたまふひと君よりぞなき
 
腰ちりめんの腰巻前を乱しつゝ淫らのさまを鏡にうつす
灯を消して二人抱くときわが手もて握るたまくき太く逞し
尺八といふことおぼえ来し君が吾に教ゆる何かはづかし
 
堪へがたき暁ごろの情欲はしとゝ濡るまでひとり慰む
わが情はうつくしきものに憧れて燃ゆるときのみ起こるなりけり
 
そして・・・、
 
何ゆゑにあゝ何ゆゑにわが夫はわれを見すてゝ此世去りにし
 
さらに・・・、
 
さらさらと巻紙にしるす美しき文字のようなる恋もしてみたし
 
エロスばかりではなく哀しみと切なさも伝わってくる。
最愛の人に抱かれる女としての歓びとて別れ。
性への歓びは生きる哀しみに裏打ちされているようで脆く儚い。
それは空井戸を覗き込んだ後に空を見上げるような悲しい読書の始まりのようにも思えてしまう。
 

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兄のトランク 宮沢清六


宮沢賢治という人は戦前の文壇では特異な存在だろう。
というか文壇の枠外で屹立しているような作家のように思う。
菅原千恵子著『宮沢賢治の青春』という本を読むと、唯一人の親友保阪嘉内との宗教観の違いから袂を分かつ場面が書かれているが賢治には耐え難い別れだったようだ。
更に最愛の妹を亡くした賢治の生き様をひとり長命した弟清六さんが長年に亘って発表して来たものを纏めたもが本書ということになる。
 
しかし舐めてかかるとしっぺ返しを喰らうような本で、賢治の思想、宗教観は難しい。
清六さんは賢治より8歳年下だが本人しか分からないような話しが随所に出て来る。
例えば父との対立では賢治が良からぬ思想にかぶれるのではないかと心配している。
賢治は手紙に書く。
 
父上には小生の主義などの危き方に行かぬよう危険思想などはいだかぬやうにと御心配のことと存じ申し候。
御心配御無用に候、小生はすでに道を得候。歎異抄の第一頁を以って小生の全信仰と致し候。
 
宗教に疎い私だが歎異抄とは親鸞を開祖とする浄土真宗聖典で、賢治はよく知られているように田中智学によって創設された法華宗系在家仏教団体国柱会に属していたはずだが改宗したということだろうか。
国柱会とは純正日蓮主義を奉じる右派団体で会員として石原莞爾の名もある。
だが賢治は浄土真宗の人が編輯した国訳妙法蓮華経の「如来寿量品」に感動し生涯この経典を離さなかったというのだが。
清六さんの目撃談としてこんなことも書かれている。
 
その年の正月に26歳だった兄は、念仏とお題目のことについて、父と激しく話し合った後で東京へ逃げた。
 
父親は内村鑑三全集の編集に精魂を傾けた斉藤宗次郎という人と並々ならぬ昵懇の間柄で幼い賢治は次第に宗教の影響を受けていたようだ。
日本救世軍の母、山本軍平夫人機恵子を知ったことも大きく、その精神が後年の作品に表れているという。
賢治が天才なのかどうか私には分らぬが、しかしタイトルには惹かれる。
銀河鉄道の夜』『よだかの星』『風の又三郎』『セロ弾きのゴーシュ』などどれも素晴らしい。
しかし詩の創作となるとどうだろう。
はっきり言って何を書いているのか解らない。
 
肌膚を腐植と土にけずらせ
 
むかし 達谷の 悪路王
 
因果交流電燈
 
四次延長
 
井上ひさしさんは生前こんなことを言っていた。
出版界で死後も売れ続ける作家は夏目漱石太宰治、そして宮沢賢治だと。
 
話は逸れるが、当ブログで再三書いてきた戦災による被害は宮澤家も他人事ではなかった。
昭和20年8月10日、終戦5日前の花巻空襲で古いアルバム1冊を残し賢治が愛聴したレコードなど遺品は全て焼失したが防空壕に保管してあった原稿は損傷なく残った。
空襲のあったその日、アトリエを焼き出された高村光太郎訪問しており消火活動を手伝ったとある。
戦災は我が国の貴重な文物、建造物など多くを焼き払い全く忌々しい!
 
話を戻す、賢治の死は昭和8年9月21日、37歳の生涯だったが高村光太郎草野心平横光利一の尽力で全集は意外に早く編まれ、現在筑摩書房出版の宮沢賢治全集は全14巻、夭折した割にはかなりの分量になる。
 
弟の清六さんのように賢治も長生きしたら作品も新天地を求めて雨にも負けず風にも負けず東奔西走の末、更なる名作を生み出したのだろうか。
 
死の床で父親に、
 
「何か言い残すことはないか」
 
と問われた賢治は難しいことを言っている。
 
国訳妙法蓮華経を一千部お作り下さい。表紙は朱色、校正は北向氏、お経のうしろには『私の生涯の仕事はこのお経をあなたのお手もとに届け、そしてその中にある仏意に触れて、あなたが無常道に入られますことを』ということを書いて知己の方々にあげてください」
 
この遺言は果たされたのだろうか。
 
 

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仏果を得ず 三浦しおん

 
 「『たゞ今母の疑ひも、我が悪名も晴れたれば、これを冥途の思ひ出とし、跡より追っ付き舅殿、死出三途を伴はん』と突っ込む刀引き廻せば」
 
仮名手本忠臣蔵「勘平腹切の段」の場面。
主役は早野勘平、萱野勘平のモデルですね。
高校卒業と共に浄瑠璃義太夫の下に弟子入りして芸を磨く青年の物語だが文楽の知識がまったくない私でもそれなりに楽しめた。
 
しかし才能ある作家ですね三浦しをんは。
文楽太夫、三味線、人形の三者からなるそうだが人形浄瑠璃というものを一度見たくなった。
人間国宝竹本住大夫師が文楽としては初めての文化勲章を受章
 
ともかく主人公の健(たける)は勘平に成りきるための日々の精進、もし私が若くしてこの世界に飛び込んでいたらどうなっていたのかとありもしない妄想を楽しませてもらった。
 

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【BMW】UNFOLLOW

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素晴らしい!

パルプフィクションのような映像に知的センスを感じる。
もはや芸術的。。
これならスポンサーも文句はなかろう。