愛に恋

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『女たちへのいたみうた』金子光晴

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時に歌人は女の尻を追い、画家は女の裸体を描き、詩人は心を女を開け放つ。

まあ、それはともかくも、金子光晴の『女たちへのいたみうた』は素晴らしい。

 
あゝ、けふもゆきずりの女たち、
みしらぬ女たち、ことばもかはさず
まためぐりあふ日もない女たち。
うき雲のやうに彩られて
こころに消えぬ女たち。

その誰と住んでも年月はとび去り
おなじやうに生はからっぽだらう。
放蕩よ。つかひへらした若さは
こぼれた酒とおなじで、ふたたび
このこころを沸かすすべもない。
 
おしろいにまみれた裸虫さん。
まだあったかい牛乳壜さん。
ねどこのうへにこはれたせとものさん。
二十年前の匂やかだった女たちのやうに。
二十年後は、若いあなたも老いてゐるか。

私は、かなしげに眼をつむる。蒼穹のふかみ
おびただしい石の円柱が倒れる。
退場するもののすさまじい鳴響。
さかさまにながれる『時』の血流のなかで、私は叫ぶ。
「一千万人の女たちよ。さやうなら」