本書には著名な30人の恋文が掲載されている。
少し面倒だが名を連ねてみる。
この世の中、何が辛いと言って別れほど哀しく辛いものはない。
ましてや今生の別れとなれば尚更だ。
この本には何も結婚前の熱烈なラブレターばかりが載っているわけではなく、毅然と決別していく最後の情愛籠もった手紙もある。
しかし、昔の人にとって歳の差婚は今ほど問題ではなかったのだろうか。
例えば谷崎の3番目の妻は17歳下。
抱月の場合は須磨子が15歳下。
52歳の斉藤茂吉が恋する相手は24歳下。
芥川が後に結婚する塚本文と初めて会った時はまだ8歳だったとか。
問題は藤村で、長編小説『破壊』出版までに3人の女児を死なせ、栄養失調で妻も亡くし、更にまだ4人の子供を抱え、姪を腹ませてしまうというスキャンダル。
しかし50を過ぎた藤村は、後添えとなる24歳下の静子にラブレターを書く。
鴎外も然りで、共に再婚なれど年齢差は18歳。
その鴎外が満州の戦地から1年11ヶ月の間に妻に送った手紙は140通。
哀れを誘うのは小林一茶。
人の世に花はなしやと閑古鳥
50代に入ってやっと23歳年下の女性を娶るが、生ま出る子は次々に死に逝き、遂には妻にも先立たれ、一茶の哀しみや如何に。
お相手は先に書いた38歳の女性。
「拝啓、ああおどろいた。ああびっくりした。むねどきどきしたよ。どうしようかとおもったよ。しかし電報拝見安心したが、無理なことはしてはいかんよ。お互いもうじき68歳ではないか。レンアイも切實な問題だがやるならおもひきつてやりなさい。一體大兄はまだ交合が上手く出来るのか。出来るなら出来なくなるまでやりなさい。とにかく無理なことはしてはいかんぞ(略)」
> 一體大兄はまだ交合が上手く出来るのか
そのへんの事はどうだったのか私も知りたいところだ。
最後に北村透谷が言ったこの言葉がしびれる!
「恋愛こそ人生の秘密を解く鍵であり、恋愛なくして何の人生あらんか」
その透谷、妻が居ながら若干25歳で自殺する。
しかし歴史が定まった今、その大いなる男女間のドラマを垣間見るのは感動を呼び起こす。
因みに小野寺十内とは赤穂の浪士です。