愛に恋

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ダメオのアニマル・ラブ Part.27

「どうした」「・・・」「どうしたんだ」「何か来る」「何が」「分からん。しかし何かがこっちへ来る」「ネコか!」「違う」「じゃ犬か」「犬でもない」「じゃあ何だ」「今まで嗅いだことのない匂いがする」「どんな」「何か生臭い匂いだ」「こっちに迫っているのか」「風に乗って匂いがしてきた」「敵か!」「そんなような感じだ」「じゃ、逃げた方がいいんじゃないか」「ちょっと待て、もう少し様子みよう。敵はまだ気づいてないだろうから」「いや、見つかる前に逃げた方がいいぞ」「うん、しかしまだ見えないほどの距離だ。相手が何者か見よう」

「おお、暫く見ない間にずいぶん大きくなったな。茶坊主に腕白坊主に黒姫山だったけ。元気でなにより。悪戯してないか。茶碗割ったり、ゴミ箱を散らかしたり、風呂場で暴れたり、隣の猫を虐めたり、そんなことをしてっると追い出されてしまうぞ。分かったな。お~い、ジミー、出迎えはないのか。今、着いたぞ」

いや~長い間、何かいい枕はないかと随分探し回ったけど、なかなかないんだよね安眠枕というのは。親戚筋に訊いたり、亡くなったお婆ちゃんのを使ってみたり、別れた旦那が置いていったものを使ってみたりしたけど、いまいち合わなかったんだよ。あれもダメ、これもダメと思っていたところ、先日、浜に出て猟師のおじちゃんに貰ったサンマを持って帰って、さあ、食べようかと思っていたらいつの間にか眠ってしまったんだよ。どういうわけかサンマを枕に。この香しい匂いと共に、何と安らぎ深い熟睡が出来たことか。今まで思いもつかなかったよ。

「ちょっと、ちょっと、早く出して」「煩い。まだだ」「狭いって」「もう少し辛抱しなさい」「何処まで行くの」「ディスカウントストアだ」「あと、どのぐらい」「15分だ」「ええ、まだ15分もこの中にいるの」「そうだ、お前の新しいケージを買いに行くんだよ」「そんなの要らないよ。部屋の中で伸び伸び生活したいんだよ」「バカ言え。みんなが留守の時にお前はやりたい放題だからな」「大人しくするから」「信用できない。前もそう言ったからな」「今回はホント。約束します。お願い」「ダメだ。一度嫌な目に遭わないとお前は信用できない」

あたしゃあね、洒落神戸、いやいや、「しゃれこうべの松」というもんでさ。分かりますよね。しゃれこうべとは髑髏のことです。この辺りではちいーと名の通ったもんでしてね。みんなあたしを恐れて近づこうとしないんですよ。謂わばこの町のドンです。夜なんざこの白の部分しか見えないので、ネコたちは怖がって逃げていきますからね。生まれつき私の一族は、世間から崇め奉られ何十年も一帯を支配しています。以後、お見知り置きを。

「ちょっと、ブラッキー。いい加減にしてよね」「いいじゃないかホワイティ。今日は何の日か知ってるだろ」「知ってるけど、別に今日は告白日じゃないんだからね」「何言ってるんだよ、世のカップルにとっては一番楽しい日なんだよ」「知ってるよ、然し私たちはまだカップルじゃないじゃないの」「だからだよ、こんな日にシングルで過ごすなんて寂しいだろ。早くカップルになってさ、楽しくやろうよ」「だから言ってるじゃないの。口先ばかりの雄は嫌いなんだって」「分かった、それなら僕がどんなに君の事を好きか、この際、危険を冒してエサを取って来る」「別にそんな要求してないよ」「いや、僕の覚悟は決まった。行って来る」「ちょっと待ってよ」「ひと月以内に帰って来なかったら何処かで死んだと思って」「ちょっと、ちょっとブラッキー、行かないよブラッキー」「・・・」

「おお、なんだ。フク助じゃないか。どうしたんだ」「雨に濡れてさ」「まったく情けないザマだな。そんな恰好で仲間の見つかってみろ、馬鹿にされるのがオチだぞ」「そうなんだよ。だからここで太陽が照るのを待ってるんだよ」「何故、早く帰らなかったんだ」「それがさ、帰る途中でいきなり雷で、少し木陰だ休んでいたら大雨で参ったよ」「とにかくだ、フクロウのなりを取り戻してから帰れよ」「うん、分かってる、虐められるのは嫌だからね」「おお、そうだよ。じゃ行くぞ。またな」「うん、ありがと」

「ママ、僕のご飯は」「まだです」「どうして」「鮭が川を上って来ないから」「シャケ?」「そう、鮭が上ってきたらたらふく食べれるからね」「じゃ、それまでどうするの」「大丈夫、どんぐりの実が沢山落ちているところを知ってるから、今から出かけるよ」「うん、遠くまで歩くの」「疲れてたら背中に乗っていればいいから大丈夫」「うん、よし行こう」「はいはい」

「何だお前は」「カニだよ」「カニ~、ズワイガニなら知ってるが、お前みたいなへなちょこなカニは知らないな」「へなちょこだろうが何だろうが、オイラは立派なカニだよ」「ほ~う、カニね、その体に合わない目ん玉はなんだ」「アンタみたいな図体が大きな獣を見るためにある目玉だよ」「よ~言うた。なかなか挑戦的じゃねえか」「あたりめえよ。こっちとら、すばしっこいだけが取り柄でね、オイラを捕まえようと思ってもそうはいかないんだよ」「ほう、言うじゃねんか。やってみるか」「言っとくけど、直ぐ向こうは海だよ。あそこまでが勝負だ」「だから何だ」「オイラが海まで逃げ切るのが早いか。アンタが捕まえるのが早いか、さあどうする」「この野郎、あ、待て」

「おお、ビックリした。こんな所にいたのか。なにやってんだ。探したじゃないか。聞こえていただろう、早く出て来い。今日はお前の好きなシャケ定食だぞ。行くぞ玉三郎」「ああ、ちょっと待って。家にこんないい寝床があったなんて知らなかったんだよ。これからここで寝起きするから、弥助には黙っててね。あいつに知れたら絶対取られてしまうから」「分かったわかった。その弥助が、お前がいないいないって、あっちこっち探し回ってるんだから、早くいかないと」「うん、庭で用を足していたということにしててね」「分かったから早くしろ」「うん」