愛に恋

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亭主の家出 吉村 昭

その昔、まだ20代だった頃の私は本当によく司馬遼太郎さんの作品にお世話になっていた。

司馬さんを支柱にどんどん幅を広げ歴史文学や評伝、自伝など読むようになったが、誰か私を夢中にさせてくれる歴史作家はいないものかと探していたところ、巡り合ったのが他ならぬ吉村昭さんだった。

大河ドラマ的、司馬さんの大スケールとは違った、あまり知られていないような歴史的事件や人物を取り上げ、パズルのように知らなかった歴史の闇を埋めていくようで大変役立ったわけだが、今回、積読で積んであった吉村さんの作品は、まったくの通俗小説だが、これがまた結構面白い。

家出人を2食、1500円で泊めてくれる至れり尽くせりの「亭主の館」なる家を中心に、家出の理由が様々な男たちのドラマを背景に物語は進行していく。

然し前半は妻との小さな諍いや、変化のない会社への通勤など「亭主の館」へ赴く設定が用意されている。