ハリウッドの帝王がクラーク・ゲイブルだということは、知っておりましたが、ハリウッドの女王が存在するとは知りませんでした。
貴女だったんですね。
当時の金額で1本、50万ドルというギャラを稼ぎ、男性遍歴には事欠かない肉食系の女、欲しいと思ったものは必ず手に入れる。
朝まで飲んで歌ってドンちゃん騒ぎ。
皆が酔いつぶれて眠ってしまった後もひとり蓄音機をかけフラメンコを踊っている貴女、そう、貴女こそが女の中の女と言われたエヴァ・ガードナー、その人だったんですね。
エヴァ・ガードナーお映画界入りは姉の夫が写真家であり、彼が撮ったエヴァの写真をウィンドウ飾っていたのを、たまたま通りがかったMGMの写真が見たことから始まった。
然し驚いたのはエヴァの性格で私が思ったとおり。
野性的な美女で気が強く移り気、操るのは難しいタイプですよね。
スカウト部の部長はこんな風に言っています。
「神の賜物としか思えない」
「この女性と契約しないとしたら頭どうかしてる」
そこまで言うかってなもんですよね!
そんなエヴァがハリウッドに着いたのは1941年8月23日。
日米開戦が迫っていた。
然し貴女、1942年にミッキー・ルニーと結婚したんですね。
またなんでミッキーだったんですか。
貴女より背が10㎝以上低いルニーと、ビックリしました。
それもまだ処女だったとか、勿体ない。
それから味を占めて男漁りが始まったわけですか。
然し、MGMの契約書には次のようなモラルに関する条項がありますがどうでしょう。
「世間の習慣および道徳に正当な敬意を払って行動すること。社会的に品位を落とすような言動、あるいは、世間の憎悪や軽蔑、冷笑、嘲笑の的となるような言動、世間を騒がせたり侮辱したりルールに違反するような言動を慎み、世間の道徳や常識、先入観および製作者(MGM)もしくは映画産業一般を嘲笑するような言動を慎むことに同意する」
どうですか、そのもっとも非協力的な俳優に会社はシナトラを選んだとあります。
その前に世界の大富豪、ハワード・ヒューズと恋仲になっていたなんて、その後、シナトラと貴女が二度目の結婚、貴女、三人とも大金持ちばかりじゃないですか。
そして世界一有名な夫婦になってスキャンダルを撒き散らす。
素晴らしい、それでこそエヴァです。
然し独占欲の強い貴女はミッキーの時と同じく忙しいシナトラと共に過ごす日が少なかった。
本来貴女は家庭に入って子供を作り、平凡な主婦として過ごしたかったのに、貴女だち二人は映画にコンサートにと世界を飛び回り落ち着く暇もない。
たまに会えば喧嘩が絶えず恐ろしい勢いで怒鳴り、叫び、手のつけようがない。
気に入らない男も平気で殴り倒す。
貴女は大柄ですからね、かなり痛そうなパンチでしょうね。
そんな貴女をゲイブルは大好きだったそうです。
然し貴女はユーモアがありますね。
シナトラみたいな小男のどこが良くて結婚したのかと問われると、
「そうね、身体は小さいけど、持ち物が立派なとこかしら」
大女優たるもの、このぐらいは言ってもらわないとね。
日本ではそんなことを言う女優なんて一人もいません。
仮に居たとするなら故太地喜和子ぐらいでしょうか。
グレース・ケリーはエヴァのよき友人だったらしいが、二人の違いはエヴァの方がセックスについて開けっ広げだったとこで、ウガンダの奥地で二人でロケに行ったときのこと、現地のトッシ族の一団とすれ違った時、エヴァはグレースを振り返って言った。
「あの男たち、ほんとうに自慢するほど立派なモノを持っているのかしらね」
グレースは頬を赤らめてそのままいきすぎようとしたが、エヴァはトッシ族のひとりの男の腰布をまくりあげると、巨大なペニスが太陽の光をうけて光っていた。グレースは思わずまじまじと見つめた。エヴァは肩をすくめてのたまう。
「フランクはもっと大きいわ」
そんな豪放磊落なようなエヴァだが、シナトラと離婚してスペインに住居を構え、次々と闘牛士をモノにして遊びまくり破産状態に追い込まれる。
それを助けたのがシナトラで、彼は生涯、エヴァを気遣い、いつも気にかけていた。
エヴァは子供に恵まれず、さらに50年代後半から次々に伝わる悲報に悩まされる。
58年タイロン・パワーが心臓発作で亡くなり、まだ44歳の若さだった。
60年にはゲーリー・クーパーとクラーク・ゲイブルが、そして61年にはヘミングウェイが猟銃自殺を遂げ、それが長い間、エヴァを苦しめる結果になった。
そんなエヴァは年齢を重ねてもガムを噛みながらタバコを吸い酒を飲む。
若い頃から夜更かしをして気に入らない記者などにグラスを投げつける、そんな剛毅な姿を一度見たかったな。
惚れてまうやろ!
だが、エヴァの悲哀について著者はこのように語る。
ジーン・ハーロウ、ジョーン・クロフォード、マリリン・モンロー・、ラナ・ターナー、クララ・ボウ、ジュディ・ガーランドが、いずれの父親の庇護をうけることなく成人したのは、かならずしも偶然とはいえないだろう。彼女たちはほかのものはすべて持って。華やかさも美貌も、セックス・アピールも、人好きのする性格も。
エヴァは家族の中でただひとり、父親から緑の瞳と、えくぼのある顎、激しい気性、そして旺盛な食欲をうけついだ。父が亡くなったのは、エヴァが娘ざかりになる頃。強く自信にあふれた男性像が一番必要な時期だった。エヴァは、なんの見返りも求めず彼女の幸福だけを願う男性に、愛され、抱きしめられることが、どんなことか生涯知らなかったのだ。父の腕にすがって歩くグレース・ケリーを見て、なんてと幸運な女性だと呟いたエヴァの言葉。
晩年、エヴァは呼吸器系の病気に罹り入院したが、シナトラは彼女が回復するまでの医療費を負担し、その額は100万ドル以上費やしたとある。
そこまでの関係だったのに二人なのに、なぜ離婚したのだろうか。