まったく惜しい人を亡くしたものだ。
歌舞伎の実演を見たことはないが、長く「鬼平犯科帳」ファンだった。
御父上の松本白鸚さん、萬屋錦之介さんと続けて鬼平のファンで申し分のない演技だったが、はて、実に惜しいことだ。
あれは30年程前だったと思うが、芸能人がよく泊る名古屋のホテルロビーで、彼女と二人珈琲を飲んでいたときのこと。
一流ホテルのロビーとあって店内はゆったりしたソファー、こちらの会話が途切れた時、若い男性が隣に座るご婦人に、何やら巻物みたいな物を届けにきた。
ご婦人は手に取ると、時代劇さながらに巻物を読んだ順から床に落としていく。
私は、今時、手紙を読むのにこんな時代ががかった大仰な所作があろうかと、さりげなく見守っていると、そこに現れたのが中村吉右衛門さんだった。
予測もしないことだけに、こちらはもうビックリ。
なんせ至近距離ですからね。
私は彼女に目で合図しただけだったが、歌舞伎役者に来る手紙は今でも巻物なんだと唖然。
吉右衛門さん、長い間、「鬼平犯科帳」ありがとうございました。
合掌!
私が時代劇のエンディングテーマで一番好きなのはこれ以外にありません。