久しぶりに、水上勉さんの小説を読んだ。
20代前半だったと思うが『雁の寺』や『五番町夕霧楼』、更には私をして感動せしめた『越前竹人形』などは本当に名作だと思う。
映画では若尾文子が演じていたが、やはりあの作品は彼女に相応しかったのだろうか。
扨て今回の作品『棺の花』は少しミステリータッチのストーリーだったが、『那智滝情死考』は不幸な男女が心中の場所として選んだ最終の地が那智の滝だったという四編の話。
これがどれを取っても実に見事な短編で、実際に起きた心中事件扱っているのではないかと思うほど切実でリアル感があった。
水上さんには大逆事件で死刑囚となった『古河力作の生涯』という佳作があるが、日陰に生きる人の生活にスポットを当て、歴史の表舞台に登場させるかのようなストーリー展開が実に上手い。