「旦那、いくら何でもこれはちと酷いんじゃないですかい。車を積んであっしに引かせようというんですか、そりゃあんまりだ。馬をこき使うにも程がある。他の馬をを見て御覧なさい。何処の馬が車なんか引いていなさる。あっしが引いてもらいたいぐらいでさ。親友のロシナンテと相談して飼い主を替えてもらうことにしますだ。怒らないでくださいよ。こうなったのも旦那の所為ですからね。とにかく行きましょう。これが最後の仕事にさせてもらいますだ。ハイドウ。あっ、間違えた。これは旦那が言うことですよ」
「まあそう怒らんでくれよ。頼むから。帰ったら特製の人参をたらふく食わせるからさ」
「人参、にんじんって、あまり馬をばかにするのもいい加減にしてもらいたいもんですね。人参を鼻の先に垂らせば走ると思っている、その人間の浅ましさにはもううんざりでさ」
「じゃ、どうしたんいんだ」
「決まっているがんす。ロシナンテみたいに種馬に鞍替えしたいんでさ」
「ええ、お前まだそんなに若いの」
「旦那、見損なっちゃいけませんぜ。これでも毎日、雌馬の2頭や3頭は相手にできる体力はありますずら」
「然しお前、お前の種じゃまた馬車馬がいいところだぜ。それでもいいのかい」
「ああいいとも。同じ体力消耗なら種馬の方がよっぽで生きる甲斐があるってもんですからね」
「そうか、お前がそこまで言うなら、帰ってからかかあに相談してみるよ」
「頼みますよ旦那」