師匠ね、この際だから云わしてもらいますが、貴方ね、少し度が過ぎるってぇもんじゃありませんか。
甲斐性がないにも程があるでしょ。
所帯を持つ前からの悪癖、つまり飲む打つ買う。
結婚して少しは治るかと思ったら、やや子が三人も出来たと言うに、家には一銭の金も入れず。
給金が入ったかと思えば直ぐ博打。
勝ったら勝ったで吉原泊まり。
負けた日にゃ知人友人に借りまくって返さず。
引っ越しした先々でも家賃の踏み倒しはあたりまえ。
師匠から預かった金さえ酒に消え、大事な妻の着物、師匠の羽織、タニマチから祝いに貰った衣装、総てが飲む打つ買うですってんてん。
その間、奥さんはひたすら耐えて、針仕事の内職で糊口を凌ぎ、塗炭の苦しみを味わっていたのですよ。
ただ将来の出世に望みを繋いで。
然し出世魚じゃあるまいし、名前を16回だとか22回だとか忘れましたが改名し、読んでる方も今、何という芸名になっているのかこんがらがりますよ。
貴方がどれだけの名人か知りませんがね、偉いのは奥さんですよ。
貴方の将来に賭けて里にも帰らず、只管耐えぬいた奥さん。
感謝してるんですか。
いったい幾ら義父に借金したと思ってるんですか。
まったくもう。、笑っている場合じゃないですよ。
因みにこの人の孫娘が池波志乃になる。