愛に恋

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リーチ先生 原田マハ

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よく私は、バーナード・ショーと、バーナード・リーチを間違えることがあるが、本書はあくまでもバーナード・リーチの物語である。

イギリス留学中の高村光太郎と知り合ったことから来日し、光太郎の父光雲を訪ね、エッチングの技術とウィリアム・モリスが提唱する、アーツ・アンド・クラフツ運動を広めようと思っていたところ、白樺派のメンバーと意気投合、中でも柳 宗悦の目指す日本民芸に共鳴し、知り合いから教えてもらった日本の伝統的陶芸に興味を持っていくのだが、原田マハの上手いところは、史実をよく研究し歴史上の人物を多く登場させ、その中に恰も同時代人のようにして、例えば本書では沖亀之助、高一親子という架空の人物を登場させストーリーを展開していく。

であるからして本書は伝記小説ではなくフィクションなのだが、然しながらリーチが歩んだ道のりをほぼ正確に書いていく点が素晴らしい。

戦前に来日して亀之助と知り合い師弟関係となる二人、そして戦後、再び来日した時には既に亀之助は亡く、同じく陶芸家となっていた息子の高一と巡り合う。

 

白樺派の青年たちと知り合ったのは明治42年頃だと思うが、ある会合で一同に会したメンバーを見て私などは興奮しますね。

高村光太郎志賀直哉武者小路実篤、里見 弴、柳 宗悦、岸田劉生、そしてリーチ。

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岸田劉生作《リーチ》

当時、白樺派印象派に強い影響を受けていたようだが、何故、印象派と言われるようになったか、その由来が書いてある。

展示室に並べられた見たこともないような絵の数々を眺めて、ある評論家が言った。

どうだ、「この絵の乱暴にして粗雑なこと! まるで画家が自分の印象だけで、適当に描いたようなものじゃないか!」

それから印象派と呼ばれるようになったとある。

対する柳はと言うと、リーチの「いま、一番関心のあるのは、どの画家ですか」という質問にこのように答えている。

「そうですね。やはり、ドイツ系の画家でしょうか。マックス・クリンガー、スイス人だがドイツで活躍したベックリン、フォーゲラー。ドイツの画家たちは、奥深いですからね。人間の心象風景を見事に表出させる力がある。日本人は、もっと彼らの作品について知るべきです」

う~ん、恥ずかしながら誰も知らない。

然し、リーチは言っている。

「わからないことを肯定することすべてが始まる」

そうなんですよね、私なんか分からないことだらけだったから読書を始めたようなもので。

以前から、白樺派の中でもイマイチよく分からなかった柳 宗悦について随所で出てくるので参考になった。

柳の偉いところは、日常的な器にこそ、普遍的な美が宿ると提唱し、民間で作られている陶器を「民陶」と呼び、名もない職人の手によって生み出される器に美を見出し、彼はそれを「用の美」と呼んで、用いて美しいもの、機能があって優れているもの、日本の器、民陶には、そういう魅力があふれているのだと見抜いた点であるらしい。

原田マハは日本で唯一の美術小説家らしいが確かに面白い、すっかりファンになった。

尚、本作は第36回新田次郎文学賞を受賞している。

 

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