愛に恋

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楽園のカンヴァス 原田マハ

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何も事件など起きないが、美術ミステリーといった上等な作品。
著者は経歴からも窺い知れる相当な絵画ファン。
アンリ・ルソーの『夢』を巡って、いきなり読者の心を掴むような展開に、久しぶりに面白い小説に巡り合ったような予感を感じた。
 
これ以前『アンリ・ルソー 楽園の謎』を読んでいたので、多少なりともルソーに就いての知識があったのが役だった。
然し、美術界に関して無知な私は「MoMa」なる単語がニューヨーク近代美術館だということさえ知らず、展示作品のピカソ『アヴィニヨン娘たち』、ゴッホ『星月夜』、アンリ・ルソー『夢』をめがけて年間200万からの来館者があり、物語は日本国内でかつてない最大規模のアンリ・ルソー展を開くため、是非ともこの『夢』を貸し出してもらうための秘策から始まる。
元より私はルソーが天才か否かなど分かるはずもないが、本作ではこのように書かれている。
 
やはり彼の作品は遠近法も明暗法も習得し得なかった無知で下手くそな日曜画家のものでしかない。しかし一方で、ルソーの登場がピカソシュールレアリスムに与えた影響を考えれば、これほどの孤高の異才は、美術史において、後にも先にもなかったのではないか。そしてもしも、彼が「無知」を装った「天才」であったとしたら?
 
ところで問題の『夢』だが、ルソー最晩年(1910年)の傑作だが、この絵をどう見たらいい。
 

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20世紀美術における奇跡のオアシスであり、物議を醸す台風の目ともなった作品だ。
 
とあるが、この絵がそんなに凄いのか!
ソファーに横たわる女性にはヤドヴィガという名前がある。
また『詩人に霊感を与えるミュ ーズ』のモデルは、ルソーを発見した詩人、ギヨーム・アポリネールと、その恋人のマリー・ローランサンだが、アポリネールの姿が不自然なのは、正確に描こうとするあまり、目、鼻、口と全身くまなく巻き尺で計った結果、このようになってしまったらしい。
 

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絵を見る限り確かに子供が描いたと揶揄されるように、如何にも日曜画家という誹りを免れないが、どうもそういう穿った見方は当てはまらず、著者は主人公の織絵に以下のように思わせている。
 
ルソーはとかく遠近法のひとつも身につけていないアカデミズムとは無縁の「日曜画家」だと言われ続けてきたが織絵(主人公)の持論は違った。正式な美術教育を受けていなかった、という点は動かしがたい事実ではあるが、ルソー独特の表現手法は、あるときから画家が「確信犯的に」選びとったものである、というのだ。画家として卓越した技術を身につけられなかったわけではない。あえて「稚拙な技法」「日曜画家」と言われ続ける技法で勝負した。それはピカソマティスなど、20世紀美術に変革をもたらす芸術の風雲児たちの登場と少なからず関係している。
 
画家の目が、この世の生きとし生けるもの、自然の神秘と人の営みの奇跡をみつめ続けたからこそ、あんなにもすなおで美しい生命や風景の数々が、画布の上に描かれた得たのだ。唯一無二の楽園として。
 
画家になる前は税関に努めていた関係上、「税関吏ルソー」などと呼ばれることもあった人が天才だった!
とまれルソーのことばかり書いてきたが、ストーリーとしては虚実入り混じった先の見えない展開に読者を引き込んでいくこと請け合い。
流石に山本周五郎賞受賞に外れなしの作品で確かに面白い。
 
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