愛に恋

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私は置き忘れて来た

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『地上』で有名な天才作家、その後、発狂した島田清次郎の作と言われるものに以下のような詩がある。
 
銀座の裏に花を置き忘れて来た
緑のトランクはわたしの歓びを入れたまゝ
ステヱシヨンに置いてある。
誰にも告げないで夜空に放った赤い風船は
今何処に流れてゐるだろうか
(あれが一番私を知ってゐたのに)
精神病院の鉄格子の窓から
私は片方の黒い靴下を棄てた
乳を出した狂女が向ひの窓でそれを見てゐたが、
乳をもいでわたしに投げつけた。
どこかに置き忘れてゐた哄ひがくツくツと
この時、舞ひ上がった鳩を追ひかけて行った。
 
これは昭和3年9月に「悪い仲間」という同人誌に掲載されたもので清次郎、入院中の作らしい。
哄ひ」とは笑いと読み、それもどっと笑うという意味合いがある。
 
緑のトランクはわたしの歓びを入れたまゝ
ステヱシヨンに置いてある。
 
素晴らしい発想だと思う、ちょっと真似できない。
 
どこかに置き忘れてゐた哄ひがくツくツと
この時、舞ひ上がった鳩を追ひかけて行った。
 
哄ひが舞ひ上がった鳩を追ひかけて行ったという訳だから凄い。
技巧的にしろ凡人の才能ではないだろう。
詩人として詩集を出してもよかったのではないだろうか。