江戸時代のベストセラー『日本永代蔵』は、一代で巨万の富を築き上げた藤市(ふじいち)の倹約精神を扱った本だが、その吝嗇っぷりが可笑しい。
年の暮れ、藤市の店に餅屋が注文された餅を届けにやって来た時のこと。
持って来たはいいが、搗き立てのその餅を何故か藤市は受け取ろうとしない。
見かねた店の奉公人は損のないようにとしっかりと重さを量って買うと、藤市から思わぬ大目玉を喰らう。
「この家に奉公する程にもなき者ぞ、温もりのさめぬを請取りし事よ」
この家の奉公人ともあろうものがよくも暖かい餅を受け取ったな!
「又目を懸けしに、思いの外に減(かん)のたつ事」
せっかく目を懸けてやったのに、思いのほか腹の立つ奴だ。
と、藤一が言うので量り直すと目方が減っていた。
搗き立ての餅は冷めて重さが減ってから買う。
それが藤一のやりかた。
「手代我を折って、食ひもせぬ餅に口を開きける」
奉公人は餅を食いもしないのに、口を開け呆然とした。
僅かな損も見逃さない商人藤市の見識に奉公人は恐れ入った。
なるほどね、ここまで徹底した吝嗇を貫いてこそ一代で蔵も立てたということなのじゃ!
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