愛に恋

    読んだり・見たり・聴いたり!

自動巻時計の一日  田中小実昌

 
田中小実昌を見なくなって久しいが、いったい、いつ亡くなったのかと調べてみると2000年2月26日とある。
毛糸の帽子がトレードマークで、昔はよくテレビで見かけたものだが、どういう人なのか詳しく知らなかった。
しかし、古本マニアのネットなど見ていると、この人の本は意外によく売れている。
直木賞作家だったんですね。
そこで遅まきながら、古書市で見つけたのを一冊頂戴仕った。
本書は71年に直木賞候補にもなった作品らしいが、実に妙な作風だった、と思うのは私だけか!
 
「どんなに、おれのまわりを見まわしても、見なれたものばかりだ」。米軍基地の化学研究所に勤める男が、朝起きてから夜寝るまでのことを書き出してみようと思い立つ。家での朝食、通勤風景、米兵たちとのやりとり、時間を盗んで翻訳している小説…何のへんてつもない日常の出来事が一体となって、類例のない小説が誕生した。
 
と、解説にはあるが、気になるのは「時間を盗んで翻訳している小説」の部分で、本来ならこの解説で充分なのだが、作者はご丁寧に訳文をそのまま本文中に載せている。
つまり、一日の出来事の中に訳している外国文学も掲載して私に読ませる。
本書には目次がないので、時間に沿って進行形の話を書いているが、突然、訳文の中に入ってしまい、その区切りに戸惑う。
本人曰く、
 
「もう、だいぶ前から、おれは、一日のことを、書いてみようとおもっていた」
 
と言っているが、これで面白い小説になっているのかどうか私にはよく分からない。
しかし、直木賞の候補にも選ばれ、当時はそれなりの反響もあったのだろうか。
 
ともあれ起床後、朝食を食べながら奥さんとの遣り取りまでは面白かったが、仕事に行ってからがどうも退屈な部分を読まされているような気もするが。
職場では、液体物質を混合して特定の化学的反応を生じさせるようなことをしているらしい。
その合間に翻訳をしているというわけだが、謂わば、サボっている間にということか。
つまり何だ、私が職場で機械を回しながら、暇を見てパソコンで今日のブログを書いている。
その一日を、ブログ記事も併せて小説仕立てにして読者に読ませようという腹積もりか。
まあ、これはこれで良しとして、また田中小実昌古書店で見つけたら買ってみるか。
彼の何が面白いのか、少し確かめたい。
 
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