愛に恋

    読んだり・見たり・聴いたり!

鍵屋のお仙

江戸時代、神社やお寺は人気の観光スポットだった。
その客を目当てに寺社の境内に出来たのが水茶屋。
水茶屋とは、一椀五文ほどでお茶や団子を出す出店のことで、今の価格では125円ぐらいらしい。
その客寄せのために置かれたのが看板娘というわけだ。
 
中でも評判を呼んだ看板娘が江戸谷中、笠森稲荷にあった鍵屋のお仙。
あの「お仙泣かすな馬肥やせ」のお仙ではない。
こちらは元祖アイドルのお仙。
 
戯作者の大田南畝の評を借りればこうなる。
 
「一度、かえりみれば人は足をとめ、再度、かえりみれば、人は腰をぬかす」
 
そのお仙が絵師の鈴木春信によって描かれた錦絵がこれだ。
どうだ、腰を抜かすだろう!
 

f:id:pione1:20190201090638j:plain

 
今で言うならブロマイドだげ、これが爆発的に売れ、お仙を一目見ようと男たちは茶屋に殺到した。
勿論、鍵屋は大繁盛!
ここぞとばかり、お仙グッズが量産されこれも飛ぶように売れた。
 
元祖、会いに行けるアイドル!
しかしこれにはからくりがあり、裏にはやはり、名プロデューサーの演出も。
仕掛人は幕府御庭番、倉地甚左衛門。
笠森稲荷は倉地の領地。
参詣者が増えればお賽銭の収入が上がり地代も取れる。
 
そして気を見計らって、人気絶頂のお仙は突然姿を消し杳として行方知れず。
驚いた江戸庶民はお仙探しに躍起になるが、二度と姿を現すことはなかった。
それもそのはず、プロデューサーの倉地と所帯を持って雲隠れ。
 
それにしても腰を抜かすほどのお仙とやら、私も一度お目にかかりたかった。
 
因みに、日本には握手という習慣はないので、握手会ならぬお辞儀会があったあかどうかは私の知らぬところ。