愛に恋

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オンバコのトク 佐藤愛子

初出は『加納大尉夫人』が「文学界」昭和三十九年八月号で、『オンバコのトク』は「小説新潮」昭和五十六年三月号で、前者のみ単行本化され、帯にはこのように書かれている。
 
六十年の間、人生の浮沈に従って書いて来たもの(中略)の中に二編だけ、これだけはいい、と思えるものがあって、著者が自負する二作を敢えて現代の読者に問う!
 
『加納大尉夫人』は先回読んだので、今回は『オンバコのトク』を読みたくてこれを買ってしまった。
主人公小村徳太郎は小村トメの息子で、小村トメはこの町では「オンバコ」と呼ばれているが、「オンバコ」がどういう意味なのか誰も知らないとある。
その息子ということで「オンバコのトク」と呼ばれる徳太郎が秋祭りで「東京から来た女」と出会い、酒を飲みながら素性を訊かれるうち、問わず語りのようにして家族のことが回想されていく。
 
オンバコとの別れ、死の知らせ。
徳太郎のアパートに転がり込んで来た、兄英吉とその妻カズコ。
三人の関係はこのように書かれている。
 
英吉とカズコはとても仲がよかった。
徳太郎と英吉はよく喧嘩をした。
カズコは徳太郎を怖がっていた。
カズコはときどき、
「とうさん、ちょっと行ってくるよ」
そういって出て行った。
 
カズコは何というか、少し脳に問題があった。
男ならだれ彼なしに性交をしていたようで、突然消えては何処かで何かをしていたが、そのうち英吉が死ぬ。
残された徳太郎とカズコは喧嘩ばかりしている。
夫の死後もカズコは時々いなくなり、見かねた婦人科の医師がカズコの子宮を取ってしまった。
 
カズコの放浪が激しくなり、役場の人はカズコを精神病院へ入れるしかないという。
一端、精神病院に入れられ、その後、転院する時の徳太郎とカズコの会話が切ない。
物語は東京の女に過去を語るようにして進んでいくが、確かに佐藤さんが言われるように、この作品はいい。
もっと多くの人に読まれたいが為に、このような復刊本を出されたのだろうか。