愛に恋

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地獄の花 永井荷風

 
岩波文庫には定期的に「リクエスト復刊」というシリーズがあり、これが実に楽しみだが、現代人にはやや問題もある。
まず、文字が小さく旧漢字で埋め尽くされ何とも読み辛い。
明治時代の文学ともなれば尚更のこと。
まあしかし、そこが岩波の岩波たる所以、現在では滅多に手に入らない絶版本なのでファンも少なからず存在する。
 
本書は古本屋で購入したものだが、第1刷発行が1954年6月5日となっている。
パラパラとめくるうち、果たして読み切れるかどうか、しかし裏には「品切れ」と走り書きがありやはり買うしかない。
 
帰宅後、調べて見るに、なんと初版は明治35年荷風24歳の作品とある。
どうりで、それを知って、いやはや、本当に読み切れるのか。
感想としては『地獄の花』というタイトルは少し大仰のような気がする。
解説に拠ると、
 
明治35年荷風がゾライズムの影響を受けた時期の作品で、これによって新進作家として認められた。理想の人生の実現のためには人間の動物的側面を明らかにせねばならぬという立場から、教育家の醜悪な裏面生活や、富豪の妻の不倫などを暴露して、敢然と社会悪への挑戦を試みた青年荷風の激しい意気込みが感じられる」
 
下手をすると通俗小説のようにも読み取れるが、若い荷風の気負いみたいなものが感じられ、当時の小説にありがちな、やや不自然、または、ここはもう少し緻密になど注文したきところは無きにしも非ずだが、まあそれは私みたいな素人の言うべきことではない。
性的な描写を扱う場面もあるが、その肝心な部分は全て省略されており、まあ、時代背景もあることだから致し方ないか。
 
序に猛暑に関して荷風はこんな風に書いている。
 
「残酷な日光は、至極落着いて、而も猶、無限の熱度を隱して居ると云ふ風で、動ず迫らず照り付けて居るので、此の眞夏の眞晝は、若し單調な滿庭の蝉の歌を除いたなら、全く活きたる人生の面影を見出す事は出來なかったのである」
 
24歳か!
こんな風に書けるだろうか?
明治文学の難しさは漢字にもある。
 
「凉亭」
 
これで“あづまや”と読む。
現在では四阿と書くが、これは難しかろうに。
 
「生硬蕪雜」
 
生硬とは、せいこうと読み未熟でかたい感じがすること。
蕪雜は、ぶざつ、雑然としていて整っていないという意。
まあ、何とか読み終えたから安心。
 
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