愛に恋

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血脈 (下)佐藤愛子

 
 
下巻を読み終わって感慨もひとしおだ。
紅緑の死後、不良で手の付けられなかったハチローと妻は、揃ってヒロポン中毒になるが、まさか正五位勲三等瑞宝章を受賞するとは分らぬものだ。
生前、「勲章なんかぶら下げて喜んでいる奴はインポだ」とほざいていたハチローがである。
しかし、弟子の菊田一夫が死んで、号泣したハチローも後を追うようにして逝ってしまった。
 
下巻では隆盛を誇った、さしもの佐藤家も悉く死に絶え、残ったのは愛子を含め3人だけ。
紅緑の娘が未だ矍鑠として健筆を奮っているが、燃え盛る佐藤家の物語は広く世に広めたいものだ。
ハチローにはこんな詩がある。
 
「かァさんの手紙を読みました」
   
かァさんの手紙を読みました
あて字ばかりの手紙です

「からだを大事になさいね」が
ずらりずらりとならんでいました

返事は出さないことにきめました
又「からだを大事にね」が
ならんでくるからです
 
しかし、ハチローの作る詩は空想の産物で、実際には実母との関係は良くなかった。
では泉のように湧き出る、あの才能は何だったのだろうか。
ハチロー、愛子、そして庶子として生まれた真田与四男は大垣肇というペンネームで劇作家になりそれぞれ大成した。
これも文壇二大老と言わしめた紅緑の血を受け継いでのことなのか。
終りにあたって、是非にもこの一説は引用しておきたい。
 
紅緑、ハチロー、そしてその血を引く佐藤家の者たちはどうにもならぬ力に押されてまわりを苦しめつつ、自分の胸の奥に人知れず苦しい涙壺を抱えていた。書き終わったとき、私の中には、この始末に負えない血に引きずられて苦しんで死んで行った私の一族への何ともいえない辛い哀しい愛が湧き出ていた。

この稀にみる一族の壮絶な人生を読んで、連綿と続く我が家系を遡ることが出来たなら、さぞかし痛快であろうと思うのだが、親戚は殆ど鬼籍に入った。
げに、降る雪や明治 は遠くなりにけり
 
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