愛に恋

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わたしが・棄てた・女 遠藤周作

 
遠藤周作の小説にしては下卑たタイトルだと思ったが、逆にそれが興味を誘い触手を伸ばしてしまった。
主人公の大学生吉岡努はなんともいけ好かない男で性欲の捌け口から純粋な森田ミツの操を奪う
 
一見、凡俗で愚鈍の人間、教養もなく特別魅力のない田舎娘に対し大学生であることをひけらかすように言葉巧みに甘言を弄し肉欲の対象としてミツを抱く。
なんともまあ、遠藤作品らしからぬ展開にがっかり、キリスト教徒たる遠藤に不信感を覚えつつ読み進めてみると意外な展開が待っていた。
 
本書は昭和47年作品でちょうど私が遠藤作品にはまっていた頃と合致するのだがどうした訳か本作を読み落としていた。
というか最近まで知らなかった。
迂闊なことだが、もし47年の段階でこれを読んでいたら涙が頬を伝っていたかも知れないほど身につまされる内容だった。
 
貧困、ひたむき、不治の病などを扱った小説には特に弱い性質で、途中、胸を打つ場面に出くわし慄くようにして読んだ。
依って今回は今後の読者のため詳細は書かない。
ただ一言、田舎娘のミツは情の深い女性でマタイ伝の聖書の精神にあるような人。
曰く。
 
汝の近き者を己の如く愛すべし
 
苦しむ人々ににすぐ自分を合わせられる愛徳の行為、難しいことですね。
読了後、爽快な気分とは言えないがいい小説だった。
本書に興味を持たれた方には高山文雄の『北条民雄の生涯』もお薦めしたい。
 

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