愛に恋

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心にナイフをしのばせて 奥野修司

 
酒鬼薔薇」事件を溯ること28年前の昭和44年4月23日、神奈川県川崎市で起こった頭部切断事件。
被害者は私立高校の1年生。
加害者は同級生の少年で鋭利な刃物で全身47ヵ所をめった刺しにして殺害、事件の一部始終を見ていた人からの通報で少年Aはあえなく逮捕。
しかし、この凄惨な事件、私の記憶には全くない。
 
この本はルポルタージュだが、著者は敢えて被害少年の妹さんに一人称形式で語らせる手法を用いているため、全編、妹さんが語り部のように事件後の家庭崩壊の様相が綴られている。
解剖所見によれば刺し傷は胸部に12カ所、背中7カ所、顔面16カ所で、その遺体確認を父親がしたらしいが、事件以来、母親は寝込み、その間の記憶さえ無くなってしまった。
 
いったい少年犯罪加害者の更生とは何なのか考えさせられる。
政府が犯罪加害者の更生にかける支出は年間466億円。
一方、被害者のための予算が年間11億円。
何故、このようないびつな結果が生まれるのか疑問が覚える。
 
ともかくこの事件の意外性は加害者少年が更生後、大学を出て弁護士免許を取得し結婚して一家を構えることに被害者側が、ある程度の矛盾を感じている点だ。
30余年経った時点でも約束の慰謝料は未払いで被害者の母親は年金生活者で更に借金まである。
 
しかし、ある意味では少年法の精神である更生プログラムの最も成功した例とも言え、総てのみそぎは済み正義の味方として弁護士になり結婚し子供を設けて何が悪いとも言えるが、何か釈然としない。
被害者家族には平和は訪れず、いつまで経っても苦しみ続ける。
 
妹さんは言う。
加害者少年が弁護士になっていると聞いて。
 
「あいつをめちゃくちゃにしてやりたい」
 
と半狂乱だったとか。
 
「会うときは自分の命をかける覚悟で会いたい」
 
そういう気持ちがこの本のタイトルになっている。
 
『心にナイフをしのばせて』
 
人権なり少年法というのは実に悩ましい問題を含んでいる。
厳罰主義で臨むべきだという意見、人格形成されていない少年を犯罪者として処罰するより教育的な措置で矯正させるべきだという意見。
しかし加害者の年齢の如何を問わず、被害者家族を襲う第二の悲劇は何を持ってしても救えまい。
心に空いた損失感をどう埋めたらいい。
場合によっては絶望から死さえ考えることだってある。
 
「加害者が少年なんだから、まあ、そうキツイことは言わず長い目で見てやりましょうや」
 
なんていう気にはなれないだろう。
ましてや首を切断などという猟奇殺人とあっては、どんな言葉を持ってしても償いきれるものではない。
最後にこんな精神科医の話しが載っていたので記載したい。
 
分裂病の人は百人に一人はいる言われていて、もちろんすべて犯罪者になるわけじゃないが、精神科の世界では十四歳がいちばん危ないと言われています。だから、ある一定の確率で酒鬼薔薇のような少年が現れる可能性は否定できないんですよ」
 
確かに二度とこのような事件は起きないとは誰も言えまい。
しかし私はどうしても考えてしまう。
何も知らずに結婚した妻がある日、人づてに・・・!
 
「貴女の旦那さんって、昔、人を殺して首を切断したんだって知ってた?」
 
と言われたら⁉
 

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