愛に恋

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あひる飛びなさい 阿川弘之

 
本題を前に米内光政と言えば海軍大将にして総理大臣まで務めた国家の重臣で終戦時、鈴木内閣の下で海軍大臣を務め阿南陸相と激しく対立した人物として知られている。
その『米内光政』の伝記本を書いたのが同じ海軍の後輩で所謂、ポツダム大尉と言われる阿川弘之
私が阿川作品に初めて触れたのがこの肩ぐるしい本だった。
 
しかるにどうだ、最近、次々に復刊するちくま文庫の阿川作品はどれもお茶の間向けの大衆小説。
軽妙洒脱が得意な書きっぷりで戦記文学を書いた同一人物とは思える作品ばかり。
戦後、阿川は志賀直哉に指示し作家デビューを果たしたようだが、後年、文化勲章まで受賞する大作家になった。
復刊本はこれで確か4冊目。
 
・カレーライスの唄
・末の末っ子
・あひる飛びなさい
 
このところ同じように獅子文六源氏鶏太ちくま文庫は復刊させているが、確かにどれも面白いと言えば面白い。
しかし口当たりはいいが、時間と共に肝心な味を忘れてしまうのが玉に瑕。
昭和30年代にはこのての小説が多いに持て囃され多くの作品が映画化されたようだが、私は一本も見たことがない。
だがここ数年、筑摩書房の取っている復刊という営業戦略は評価に値するのでこれからも続けほしい。
 
さて、本書のストーリーだが、戦争に負けた日本、男たちはどうやって生きていくのか?
国産旅客機の開発を夢見る元中尉。
妻を空襲で亡くし、ひとり娘の成長に気をもみ、戦争未亡人との恋、進駐軍専用キャバレー経営から、みんなに夢を売る観光事業に転身する男。
つまり敗戦の悲観ばかりしていても何もならない。
それをバネに戦後日本の発展に寄与した男たちの話しだが暗さはなくユーモラスで愉快。
 
国産旅客機の開発を夢見る人物は加茂井元海軍技術中尉、進駐軍専用キャバレー経営をする男は横田大造元一等主計兵曹。
この二人が戦後体面する場面が面白い。
加茂井は航空工学の権威で加茂井博士と呼ばれているが、その加茂井が横田に言う。
 
「だって、あなたでしょ。方面艦隊の参謀に女を一人探して来いと言われて、これなら大丈夫ですって、自分が先にお毒味してから差し出したというのは。当時、上海で有名な話しだったよ」
 
また、横田大造がアメリカ視察旅行に行った折りの事、通訳の青年に問う。
 
「あんた、ところでコーリ・ガールちゅうもんは、簡単に手に入るかいな?」
大造が訊いてみると、彼は、
「コーリ・ガールか、コーリ・ガールは良かったな」
と大笑いし
「氷ガールでも、アイスクリームでも、何でも要ればすぐ手配して上げますよ」
 
コール・ガールという言葉はその頃まだ日本では一般的な言葉になっていなかったと書いてある
そして氷ガールなる者がホテルにやってくるのだが、その感想が面白い。
情緒というものがまったくなく、結果としてこの日米交流は素っ気ないものになった。
 
「どういうんやろ?、国情の相違かいな?」
 
彼が昔大阪の飛田の遊郭で遊んだころ、中国大陸で「お毒味」などしたころ、或は近年、荒木町あたりの待合での遊び、どれを思い出してみても、こんなつむじ風みたいな女に出会ったことは一度も無い。
 
「この方面は、大してエンジョイさせん主義かいな?」
 
と結んでいる。
ともあれ、この物語の最終は戦後初の国産旅客機初飛行を目指す加茂井博士らの努力が実ったところで終わる。
タイトルの『あひる飛びなさい』とは初国産機の名前が『銀のあひる」と命名されたことに由来する。
 
ところで余談だが、私も中学の頃から本を読んできたが文学書の中に私と同じ苗字をこれまで見たことがなかったが、何と、この本で初めて同性が現れたので驚いた。
私の苗字は全国的にもあまり多い方ではないので多少意外な感があったが。
 

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