愛に恋

    読んだり・見たり・聴いたり!

乳と卵 川上未映子 

 
この作品を芥川賞に持ってくるところが選考委員会の御目が高いところなのか私の御目が低いところなのか悩ましい。
改行なしで読点によって区切られ延々と続く文体は情景描写なり思考の連続なりで会話というのが殆どない。
 
豊胸手術を受けることに悩み続ける痩せている母、巻子と初潮前の不安を抱える反抗期で言葉を発することを拒否する娘、緑子。
母子が東京の妹宅で過ごす夏の三日間の物語。
娘は喋れないのではなく何事も筆談以外応じない。
しかし作中描写などはかなり上手い。
例えばこんな場面。
 
「フロントガラスはそこから水が沸き出てるかのようにみずみずしく光を放って、蝉の鳴き声が立体にびっちりと貼りついて、それと同じくらいしんとした午後」
 
如何に暑いかが物語られている。
またはこんな乳房の説明描写。
 
「一感想を云わしてもらえば、きれい、とか美しさの基準はそれぞれのもであるけれども、目の前の巻子の胸は、蚊にさされた程度の膨らみしかなく、そこに何かの操縦パーツかと思えるくらいの縦にも横にも立派に大きい乳首がついてあり(略)」
 
これは上手い表現だろう。
操縦パーツか・・・!
確かにそんな乳首を見たことがある(笑
 
まあ、そんなことはともかく、一見、親子愛などなさそうな母娘であったが誰よりも母への愛情があり、その表現方法が実に上手く、そこが選考委員の目を引いたところではなかったかと思うのだが。
しかしこの母娘は大阪人で、全編に亘って関西弁で語られるのは少々読み辛い。
個人的にはお薦めの一冊とまではいかないが作者の鋭い洞察力と発想には敬意を表する。
 

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