人間、誰だって死にたくはない。
がしかし、時に命を懸けてでも守るべき事態が招来することもあり得る。
敢然とそれに立ち向かう勇気、この本は、そんな日本人を描いているように思う。
きっかけは元加藤隼戦闘隊の生き残り、二ノ宮清准尉が上空から見たソ連軍戦車部隊による日本人の大虐殺。
その中に、本書の主人公たる谷藤徹夫少尉と妻朝子が搭乗した特攻機も含まれていた。
本来、戦闘機に女性を乗せるのは重大な軍規違反。
他にもうひとり料理屋で働いていた「スミ子」なる女性も共に飛び立った。
「残されて辱めを受けるくらいなら、敵軍に特攻して果てたい」
という気持ちか、二人の女性に迷いは無かった。
しかし、どうだろうか。
谷藤少尉と朝子は同居するようになってまだ一月。
前日の夜、夫婦間で交わされたであろう悲痛なる会話を想像するに涙を禁じ得ない。
本来ならあり得ない夫婦での特攻。
その日、特攻機が滑走を開始したとき・・・!
「あの飛行機に女が乗っているぞ!」
と叫んだ兵士がいた。
彼はこのように戦後回想している。
皆の歓声で、一機、また一機と飛び上がる。中の一機の後方座席に女性の黒髪がなびいていた。
万感、胸に迫るような場面ではないか。
戦争の痛ましさがひしひしと伝わってくる。
徴兵検査では本来軍人向きではなかった第二乙種の谷藤少尉の決意と無念は後世語り継いでいくべきものだろう。
男にとって敵兵による妻への凌辱など堪え切れるものではない。
適わぬながらも最後に一矢報いるという決断をしたとしても誰、責めることができようか。
それにしてもだ、残された夫婦の写真を見入ってしまう。
ソ連側の公式記録は何か残ってないのだろうか。
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