愛に恋

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カレーライスの唄 阿川弘之

 
ポツダム大尉という言葉があるが、ポツダム宣言受諾後に階級を一つ進級させることで、阿川弘之支那方面艦隊司令部附として終戦を迎え、この、ポツダム大尉として焼野原となった郷里広島に帰った。
その後、志賀直哉に師事して作家になるのだが、本題を前に娘佐和子の近著『強父論』なる面白そうな本が出ているが、何でもこんな暴言を厳父から吐かれたとか。
 
「子供に人権はないと思え。文句があるなら出ていけ。のたれ死のうが女郎屋に行こうが、俺の知ったこっちゃない」
 
佐和子はテレビでもよく父に怒鳴られたことなど語っているが、確かに今や絶滅危惧種となってしまった軍人上がりの父を持つ私も将に地震・雷・火事・親父で、どれだけ叩かれたことやら。
 
まあ、それはともかく、今回もまた筑摩文庫の復刊である。
毎回、書いていることだが獅子文六源氏鶏太、そして阿川弘之と復刊本にはとことん付き合うつもりでいるが、はて、この先、どこまで続くやら。
さて、本作は昭和36年2月から新聞連載されたものらしいが手に取るまではまったく知らない小説だった。
 
念のため調べてみるとやはり37年に映画化されており主役は江原真二郎大空真弓
ストーリーは単純なもので、出版会社、百合書房の編集員である桜田六助と鶴見千鶴子のお色気なしの出世物語。
赤字続きの会社は倒産、夢破れた六助は故郷の広島へ帰るが、男まさりの千鶴子は家などに引込んでいられず、たまたま知り合った青年がカレー会社の御曹司。
そこにヒントを得た千鶴子は株で儲けた金でカレーライス店を始めることを思い付く。
郷里に帰っていた六助を呼び寄せ二人で店をオープンする顛末を書いているのだが、どうも30年代の大衆小説は、この手のお手軽ものが流行ったような印象を持つ。
 
森繁の『社長シリーズ』や『駅前旅館』などに代表されるように軽妙とコミカルが売りで『伊豆の踊子』のような文藝ものとは違い初めから映画化を予想して書かれたような感もあるがどうだろう。
しかし、阿川氏は決して大衆小説家だけの作家ではなく、後年、海軍提督の伝記や志賀直哉の評伝も著している。
 
おそらく今後も筑摩文庫は昭和30年代の大衆小説の復刊を計画しているだろう。
当時の風俗や社会性を知る上でも貴重なので、この先、末永くお付き合いしていきたいと思っている。
 
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