愛に恋

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帰ってきたヒトラー 下 ティムール・ヴェルメシュ

 
う~ん・・・、何と言うか!
とにかく、この小説は読むより映画で見た方がいいと思う。
そう簡単な作品とは思えない。
600頁近い大作で全編、ヒトラーの独白と言っていい。
それも政治哲学的な話しが専ら。
 
現代に現れたヒトラーは徹底的に「オレ文脈」でのみ発言し、故に現代人とは会話が嚙み合わない。
つまり現代人はヒトラーヒトラーとは思わず飽く迄も物まね芸人と見ている。
そこが作者の狙いだが、会話は誤解と齟齬の連続。
例えばこんなやり取り。
ある新聞社からインタビューを申し込まれた時の会話、相手は女性記者。
 
「あなたのパスポートを見せていただけませんか?」
「あなたはインタビューの相手に、いつもパスポートを見せるように要求しているのか?」
「いいえ、自分の名をアドルフ・ヒトラーだと主張する方々にしか、そんなことは要求しません」
「それで、そういう人物はどのくらいいるのか?」
「おだやかな言い方をすれば、あなたが最初の方です」
 
この作者、かなり優れた物書きだと思う。
荒唐無稽な作品だが、こんな題材を嘗て読んだことがない。
本物であるにせよ偽物であるにせよヒトラーはあらゆる視点から現代というドイツを観察し分析し問いかける。
ヒトラーが現在のドイツに対して警鐘を鳴らすのはおかしなことだが、1945年との違いを彼自身が検証するような書き方になっている。
 
要は嘲笑とユーモアを通じて過去と向き合う。
斬新な歴史の解釈という言い方もできる。
それに、ここに出てくるヒトラーはどうも憎めない。
ただ、作者はヒトラーを通じてこんなことを言わしている。
 
「ネズミの駆除に反対する人はいない。だが実際問題、一匹のネズミを自分が殺そうとすれば、つい同情の念が大きくなる。ところがここが肝心なところだ。これは、そのネズミを生かしてもよいという同情であって願望ではない。この二つを取り違えてはいけないのだ」
 
まあ、これはあくまでも小説上のヒトラーの論理だからここでとやかくは言わない。
最後に、これをもし日本版でやったらどうなるか?
東條英機が現代に蘇ったら・・・!
風刺小説に成り得るだろうか。
 
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