愛に恋

    読んだり・見たり・聴いたり!

ゲーテさん こんばんは 池内紀

 

文豪ゲーテなんて知らないもんね~!

ショーペンハウアー、カント、パスカル、シラー、ハイネ、な~んにも解りません。
だから、私も訪ねてみたくなった。
ゲーテさん こんばんは」
そして、話しを訊いてみた。
だが、やっぱり解らなかった。
ただ、天才はダ・ビンチ、エジソン、そして平賀源内の例に洩れなく何にでも首を突っ込みたくなるということは解りました。
 
25歳で書いた『若きウェルテルの悩み』が各国で翻訳され、かのナポレオンが9回も再読し、1808年、わざわざ自宅を訪問しナポレオン勲章を授与したとか。
日本では澁澤龍彦ゲーテの『イタリア紀行』にはまり生涯の愛読書になったとあるが、こっちとら『若きウェルテルの悩み』も『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』『ファウスト』『イタリア紀行』と、な~んにも読んでないもんね~だ。
 
だからクリスティアーネなる女性と結婚したのが57歳になってからなんて全く知りも存じもしません。
ところでゲーテさん、ワイマール公国の枢密顧問官、内閣主席、財務局長官だったんだってね。
全く勉強不足でして、つまり文人宰相だったわけだ。
 
しかし貴方は凄いね!
大変な石マニアで、その数19000点。
待たせた馭者がうんざりするぐらい旅に出ては石集めに熱中。
さらには骨相学、懐中時計と興味を示し、留まることを知らない知識欲は野菜、果物と範囲を広がる一方。
 
ブナ、トウヒ、リンゴ、ゼニアオイ、スミレ、バラ、ヒヤシンス、ツリガネソウ、イチゴ、アスパラなど虫眼鏡で観察し、花弁を調べスケッチを取り、詩に歌い、友人に手紙を送り天才、暇なしですね。
 
財政逼迫する公国の仕事に悩みながらも、貴方は自然科学の分野に手を伸ばす。
天文、気象、物理、地質、鉱物、植物、美術、文藝、劇とあらゆる分野に旺盛な好奇心は釘付け。
更に人体の骨を観察、植物の変種に注目、プリズムの原理にもとづく実験を重ね光学理論を考える。
何もかも私には分かりません。
 
そして究極の決断、73歳で妻を亡くした貴方は翌年、つまり74歳の時に19歳の少女に求婚する。
何たる離れ業!
結局は実らなかった恋だが、そんなことで貴方はめげません。
70歳を越して尚、貴方は矢継ぎ早に大作を完成させる。
 
『西東詩集』『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』『穏和なクセーニエン』『イタリア紀行』自伝『詩と真実』『ファウスト』第二部は82歳で完結。
私が理解出来たのは、貴方のこんな言葉。
 
気力をなくすると一切を失う
それは生まれてこぬがいい
 
貴方は1832年、83歳で亡くなっているんですね。
ちょうど100年後の1932年、ヒトラー率いるナチ党が選挙で第一党となり連立政権を組閣、貴方の理念を下敷きにしたワイマール共和国の終焉の年でもあるんですよ。
ところでゲーテさん、貴方はナポレオンだけではなくベートーヴェンとも同時代人だったんですか。
 
1812年7月19日にお会いしたとありますが。
貴方は書いていますね。
 
「その才能には驚かされましたが、残念ながら彼はまったく抑制のきかぬ性格で、そのため自分にも他人にも、世の中を暗いものにしてしまうのです。もっとも聴力がだめになっているので、無理からぬことがあり、たいそう気の毒でもありました」
「もともと無口な男が耳のせいで、倍もものを言わなくなっているのです」
 
そうでしたか、ベートーヴェンとは、そういう人だったんですか。
欲を言えば、そこにナポレオンも居ればなお歴史ファンとしては興味があるのですが、この時期、ナポレオンはモスクワ遠征の頃でしょうかね。
しかしゲーテさん、私は騙されましたよ。
一見、取っつき易いタイトルで買ってしまいましたが、意外に難しい本でした。
というより、貴方が日頃考えていることが難し過ぎるのですよ。