愛に恋

    読んだり・見たり・聴いたり!

読書家おばちゃん

別に私は喫茶店で知り合いを沢山作ろうとしているわけではないのだが、生来、人の良さそうな人物と見るや、何かの機会でお話してしまうことがある。

その結果、行きつけの喫茶店で男性2人、女性4人、それと店員の女の子3人と親しくしているが、この喫茶店、夕方になると、数組の常連おばちゃん達が大挙して現れる。

すると店内は騒音公害よろしく、雀の合唱のようなけたたましい声が充満して読書どころの騒ぎではなくなる

私はと言うとウォークマンを耳に音量高くボツねんと孤独の中に閉じ籠ろうと頑張る。

おばちゃん達はいつも同じメンバーで、おそらく毎日会っているのだろう。

然し、いくら親しくても毎日、4人も5人も集まってよく話が続くものだと感心する。

だが、以前から気になっていたおばあちゃんが一人、丸まっちい表紙カバーもない文庫本を片手にコーヒーを飲みながら、泰然自若と読書をしている。

決して他人と群れないことを信条としているみたいで、機会があれば声をかけてみたいと思っていたのだが、何分そのおばちゃんは少し顔つきが怖そうで、読書の最中に話しかけるのも憚れるような雰囲気。

さてどうしようかと思っていた矢先、先日の年明け、帰り支度をしていた私の横に座るではないか。

おばちゃんはいつものように座るや否や、直ちに古本を取り出し読み始める。

暫くその様子を見ていた私は勇を奮って声をかけてみた。

「おかあさん、よく老眼鏡もなしで読めるね」

するとお母さん、私を見るや笑顔で、

「はい、目だけは良くて眼鏡を掛けたことがないんですよ」

と明るい反応。

まったくの杞憂で私の思い過ごし、優しいおばあちゃんだった。

10分ぐらい話し込んで別れ、そして今日、離れた場所に座ったおばあちゃんの前に帰り際座り込んで、

積読本が多く、稀に間違えて以前買った本を二重買いしてしまうことがあって、それが三冊あるから今度上げるよ」

というと、初めは悪いからと断ってきたが、

「そんなん、もう言ってしまったものを引っ込められないでしょ」

と押し切り、案外嬉しそうだったので安心して帰って来た。

あっそうそう、おばあちゃんは、そろそろ80歳近いと言っていた。

もう一人の本読みのお父さんは79歳。頑張る70代。笑顔はとてもチャーミングだった。