能楽が、能と狂言に分かれているのも尤もであると同時に、その二つが一つになって初めて能楽であることも象徴的で、そして、下層表現の二大要素といえば、いうまでもなく笑いと性で、春画がその二つの要素を兼ね備えているわけだ。
そこで多くの春画の達人としてご登場願うのが、東の横綱菱川師宣と西の横綱西川祐信となる。
先ず、この二人を覚えておけば間違いない。
俗に男性器を「まら」、女性器を「ぼぼ」なんていうが、その語源たるや誰も知らないのではなかろうか。
然しここに、こんなことが書かれている。
江戸時代に入って四十八という数字は、多くの色道指南書の中においては「陰器（ぼぼ）四十八襞の説」渓斎英泉としてもっぱら表れる。
ぼぼとは「陰器」と書いていたのだ。
言っておくが本書はエロ本に非ず、れっきとした学術書なり。
として始めたい。
先ず、シックスナインだが、江戸時代、これを「巴」「相舐」「椋鳥」と言ったそうだが椋鳥（むくどり）とはどういうことか分からない。
因みに「相舐」は男女の堅い契りを交わす代わりに、つまり証文のような意味合いだったらしい。
更にフェラチオは「吸茎」とあるが、吸茎とは何か妙だな。
クンニリングスは「舐陰（しいん）」、「ねえ、お前さん、舐陰してよぉ」とでも言っていたのだろうか。
所謂、今日でいう女性上位に関しては以下のように論じている。
この手は、女のきらふ事なれど、をのこのすきなればあるわざと見へたり。また本手がへしともいふ。
また川柳にも歌われている。
あをむけに寝て女房にへのこされ
因みに本書には250点の図版が載っているが、江戸時代は明け透けに情事が行われていたのか、長屋の薄い壁を通して、隣の悶絶は筒抜け、女性も積極的だったのか。
更に露骨な話になるが江戸期には若衆、稚児などと男色の流行り、彼らを交えて３Pなども行われていたようで、これには少し驚く。
勿論、３Pなどとは言わず、「三人取組」とあるが、まるで相撲用語だ。
ではどういうポーズになるかと言えば、女が一番下、その上に若衆、その上にさらに男が乗って若衆の肛門を取るという形、今で言うバイセクシャルというやつか。
そればかりが、今日のAVに見られる男・女・男で女の陰器（ぼぼ）と肛門を犯すなど、まったくこの技は昔からあったことなんだと驚かされる。
嬲るという日本漢字は、間違いなくここから来ているだろう。
学術的な話も多々あり、少し難しいが、掻い摘んで書いていきたい。
しみたる仲にては、ふりふられたるも面白きものなれ。後には仲直りして、物をするもひとしほ興ある事にこそ。
「しみたる仲」は、深く馴染んだ仲、、そうした仲では、喧嘩も一種の刺激剤、前戯としての戯れで、仲直りしたあとでの睦合いほど楽しいものはない、というところに趣向の趣旨がある。
確かに、この説には合点だ。
また歌麿の説も面白い。
「とかく子持ちのぼゝは味が悪いというが、おいらァ、子持ちのぼゝじゃなけりァ、うま味はでねへものと心得てゐる」
だってさ。
さて、私が子供の頃は電車の中で授乳している母親は珍しくなかったし、腋毛も剃っていなかった、あれはまだ辛うじて江戸の流れを持つ最後の時代だったのだろうか。
つまり女性の乳房が今ほど性的に欲情するものではなかった時代なのだろう。
ともあれ、江戸の昔にはブラジャーなどは無いため、真夏の暑い時など乳房が見えるなどとは言っておれまい。
ここで川柳をひとつ
相模下女しゃぶれといへばしゃぶるなり
これは、相模の下女はそれほど好き者のが多かったということなのだろうが、まあそう川柳で言われていることなので、そうなのだろう。
然し、こうも書かれている。
フェラチオに関しては男の方が恐怖心を持っていたと。
逸物を女の手に自由に委ねられるということの恐怖心で、場合によっては食いちぎられると思っていたらしい。
例えば好色な後家が、浮気相手の隣家の亭主に言う言葉として。
此やうなこの玉茎を外の女にさせるといふは腹の立つこと。いっそ喰いたい。
文化人類学でいう「歯のあるヴァギナ」ということになるらしい。
これでは男は堪らない。
そして心理学的に言う「不在の神話」として「独楽」という単語が載っている。
一般的のこれはコマと読むが、良く見ると「ひとり楽しむ」と書かれている。
それも、一人ではなく孤独の独り。
つまりオナニー、自慰を表す言葉なんだという。
成程ね、然し不在の心理とはよく言ったものだ。
最後に著者は言っているがポルノに反対するならポルノを解禁したらいい。
そしたらポルノは無くなると。
私も賛成だ。
幼児プレイとレイプ物を堅く厳禁した上で解放したらどうだろうか。
今や裏ビデオなど世に溢れている。
取り締まる意味も不可解。
