舞台はインドシナ戦争下のベトナム、つまりベトナム戦争以前の話なので対戦相手はフランスということになる。
語り手は妻子を本国に残し派遣されている英国人記者で、彼の現地妻を半年前に奪ったアメリカ人青年パイルが無惨な水死体となって発見されたところから始まる。
背景となっている独立戦争は部分的な描写はあるが、踏み込んで、その経緯を紹介しているわけではない。
本書は1955年に書かれたもので大変有名な本らしいが、私は知らなかった。
訳者あとがきとしてはこのように書かれている。
グリーンの最高傑作。壮大なクライマックスへと高まる小説の構成には巨匠の手腕が明瞭に示されている。
因みに中野重治もこの本を高く評価しているとあるが、どうだろうか、壮大なクライマックスへと高まる小説の構成って、そんなに壮大な場面なんか、どこにあったかな。
大体からして、この翻訳者が気に入らない。
何かというと「おれは言った」「彼は言った」とやたらに多い。
さらにあとがきが複雑なので少し載せておく。
ここに想像力というのは、むろん現実からの離脱あるいは飛翔の能力、空想の事ではない。虚構を通じて現実的経験の世界よりもさらに奥ふかい芸術的真実に達する作家の根源的な能力か想像力なのであって、このようなリアルティに触れた読者がその芸術的体験から逆に芸術世界へはねかえされて味わうところの強烈な現実感、それが美的体験としてアクチュアリティにほかならない。
なんだか良く解らないが、芸術的作品とも思えなかった。
54年3月に著者はサイゴンからサンデー・タイムズに寄稿しているらしいが、本書には書かれていないが、フランスがベトナムからの撤退を決めたのは、同年のディエンビエンフーの戦いの敗北からで、当時の南ベトナム大統領がゴ・ジン・ジェム。
まあ、折角の名作にケチを付けるつもりではないのだが、私としてはあまり面白い読み物ではなかった。
然し、誤解なきように、本書を絶賛する人も居るからに、私の書評は当てにならず。