この本ばかりはタイトルを見ただけで、事前に内容が予測でき、のっけから暗い気持ちにならざるを得ない。
何ゆえ、そのような憂色を以って本に向かい合うか。
江藤さんは、夫人の病死に衝撃を受け、7か月後、後を追うようにして浴室で頸動脈を切った。
覚悟の自殺で、まったく悲痛の極み。
先に旅立たれたことの痛みが、日々、慟哭となって帰り来たか。
生への執着が無くなり、本書を書き終えたら、早期に雲海の彼方に立ち去りたかった。
孤独感を慰める術もなく、精神を破壊しえない寂寥感、私は、何度も江藤さんの深層を慮ってみたが、どうしても耐えられるものではない。
考えるに、相思相愛なら理想の夫婦と捉えるが、まさかそこに落とし穴が待っていたとは。
夫妻には子供がなく、江藤さんも何ら思い残さず気軽に旅立てたのかもしれない。
妻の異変に気付いた、ある日から、脳腫瘍に侵された末期がんであることが判明して、最後まで告知せずに妻と共に歩み、ひたすら献身的な姿を読むにつれ、江藤さんの最期を知っているだけに、ただ、ただ辛かった。
あとがきの期日が、平成11年5月13日となっている。
江藤さんは看病から来るストレスなどで、かなり体調を崩し、暫く入院しておられたが、2月、3月と予後を養い、4月からは職場である大学に通い始め、大学院生の研究指導にあたり、5月8日に夫人の遺骨を青山墓地の墓所に納め、平成11年7月21日、その日を迎え浴室に入った。