枢軸のサリー

    

写真は大戦中、連合国から「枢軸のサリー」と言われ、ナチ放送関係に携わったアメリカ人女性、名をミルドレット・ギラーという。

終戦後、防空壕に隠れていたところをアメリカ軍に逮捕されたが、数日後には釈放、然し、それから3年後、態度を変えた司法省によって再逮捕された。

1948年8月21日、ワシントンへ連れ戻され、翌年1月25日より国家反逆罪によって裁判が始まる。

 

サリーことミルドレット・ギラーは、メイン州出身で東部女子名門校のハンター・カレッジを卒業後、舞台女優を志したが数年経ってもパッとせず、失望した彼女は音楽勉強と称して1929年、ヨーロッパに渡り、1940年からラジオ・ベルリンでディスク・ジョッキーとして働く。

受け持った番組は「ホーム・スイート・ホーム」という、当時はよく知られていた、主にアメリカに向けた放送で、若し、連合軍が海峡を渡って侵略して来た時は、どのようなことが起こりえるかを予測した「侵略の幻想」と題する番組だが、それをアメリカ側は録音していた。

 

「ルーズベルトもチャーチルも地獄に落ちよ、この戦争を起こしたユダヤ人も地獄に落ちよ」

 

法廷では、証拠となったこの録音盤が持ち出され、裁判は6週間で結審。

被告は、

 

「自分は愛する人のためにやむなく反逆罪を犯した」

 

と罪状を認め有罪となったが、その愛する人とはラジオ宣伝放送の責任者で、彼女のハンター・カレッジ時代の教授、マックス・コイシュウィッツという人物。

連合軍がパリに入城すると「運命の人」と別れ難い一心から、ドイツ軍に着いて逃げ落ち、そのマックスが1944年秋に死去した時の話しになると、人目も憚らずすすり泣いたという。

 

陪審員はこのような事実から17時間20分の審議の結果、10年から30年の判決を下した。

愛の力は斯くも強いことを見せつけた彼女だったが、世はマッカーシー旋風の真っただ中。

世論は容赦しなかった。