愛に恋

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道行き知らじ 

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比較的近くの商店街に、ある祠が道行く人に少しでも目立とうと、腹を押し出すように鎮座している。
有名ビジネス・ホテルの四辻の角に、見てくれよと云わんばかりに。

その昔はこの辺り一帯は池だったとか。
立て札を読むに、今から70年ほど昔、その池で溺死した子供があり、菩提を弔うため、母親がお地蔵様を作って安置した。

昭和43年と明記されているので、70年前というと明治の30年代あたりだろうか。

万葉集に曰く。

 

稚(わか)ければ 道行き知らじ 幣(まい)は為(せ)む 黄泉(したへ)の使(つかい)負ひて通らせ

 

この子はまだ幼いので、あの世への道を知りません。
お礼をします。
あの世への使いの方がた、おぶって連れていって下さい。

 

山上憶良の作とも詠み人知らずとも言われているが、わが子を失った母親の気持ちもこのようなものだっただろうか。
しかし嘗て、辺りが池だったと思わせるよすがは何処にもなく、それを知る人もいない。
時の移ろいは全てを風化させ今日に至る。

祠を写真に撮る私もどこか周りに遠慮して。


過ぎ去れば 生きた証も 祠なり