愛に恋

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果てなき便り 津村節子

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津村節子さんには、夫吉村昭氏の闘病生活を綴った『紅梅』という作品があるが、本書は二人の往復書簡などから、帰り来ぬ数々の思い出を追悼記のように纏めあげたもので、残された者の哀しみが読む者に伝わってくる。
 
二人は学習院の文藝部で知り合ったようで、共に同人雑誌を作る仲間だったらしいが、没後10年、手紙の束100余通、長い苦節の時代から、家族と遠く離れ孤独に苛まれる取材の旅、妻への最後の手紙となった遺書など、今では豊富な資料となっているようだ。
決心、希望、情熱、望郷、愛、いたわり等々の男の心、女の気持ちが装いなく吐露された言葉の数々、夫婦作家の慈しみの軌跡、先に逝った者を思い出してく書くのは辛かろうに。 
 
作家で食っていくまでは、行商人のようにメリヤスを東北地方で売りに歩いていたというが、戦後はそんな時代だったんですね。
ところで吉村昭さんといえば、司馬遼太郎さんの次に多くの本を読んだが、氏の作品は歴史小説というのではなく記録文学というらしい。
当初はそのような作家になるつもりはなかったようだが、次第にのめり込んでいったのか、徹底した調査に基づいた素晴らしい作品を多く残した。
そのためには取材を兼ねた泊りがけの出張も多く、旅先から書いた手紙を含め、節子さんは大事に取っておいたんでしょうね。
 
しかしこの夫妻、驚くのは共に日本芸術院会員ということで、他に夫妻で会員になっている人なんているのだろうか。
巡り合うべくして巡り合ったのか、稀なお二人だ。
 
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