Guy Farley - Reach Beyond Belief (Modigliani Soundtrack)
漆黒の中で手探りしていたら
何かに触ったような気がする
扉だ
思い切って押し開ける
そこには
「ようこそ大正五年へ」
という看板が立っていた
大正五年！
行けるのか？
ここはどこですか？
道行く人に訊いてみた
「銀座の柳の下です」
銀座！
柳の下？
大正五年、1916年か
第一次大戦の最中ではないか
日本軍は青島へ出兵したのか？
モスグリーンのコートを着た妙齢な女が歩いている
私も後を追ってみた
向かった先からピアノ演奏が
不思議だ
流れるメロディは中山晋平の曲ではなかった
現代の曲を弾いている
それも西洋人が
娼婦が3人
懐中時計を身に付けた紳士を取り巻いている
私はバーテンにアイスコーヒーを注文すると
そんなものは無いとぶっきらぼうな声が飛んできた
大正五年なのだ
私はいくつなのか
そうだ、松井須磨子が生きているはずだが
何処へ行けば会える
待てよ、あの扉を逆に開けると
平成が終わる改元の年に戻れるのだろうか
お前はどちらで住むつもりだ
憧れの大正か、平和な平成か
取り敢えず大正五年には
アイスコーヒーはなかった
探しているものは何だ
自分自身のルーツか
いや、私が何者なのか知らずに朽ちて行くのが怖いのだ
父よ、母よ
消え去ったアナタの人生を見せてくれ
